コミット 78:『猫耳と尻尾は正直!?セレスティの無意識スキンシップに、ニーナはタジタジ!』
ニーナによる「ギャル式コミュ力向上ブートキャンプ」は、セレスティにとって過酷な試練(?)でありながらも、少しずつ彼女の心を開き始めていた。依然として他人とスムーズに会話することは難しかったが、少なくともニーナに対しては、以前のような極度の緊張感は薄れ、ある種の信頼感を抱き始めているようだった。
そして、その信頼感の表れなのか、セレスティは無意識のうちに、ニーナに対して奇妙なスキンシップを取るようになっていた。
例えば、二人で古代文献の解読に集中している時。セレスティは、難しい箇所に差し掛かると、いつの間にかニーナのすぐ隣に座り込み、小さな声で「うーん……ここの紋様が……」などと呟きながら、ニーナの肩に自分の頭をこてんと乗せてきたりする。
「(うおっ!?ち、近い近い!なんだこの猫みたいな行動は!?いや、猫耳だから猫なのかもしれないけど!)」
ニーナは、突然の密着に内心パニックになりながらも、セレスティがあまりにも真剣な表情で文献に見入っているため、邪険にすることもできず、固まったまま作業を続けるしかなかった。
またある時は、ニーナが新しい論理魔導の実験をしていると、セレスティは興味津々な様子でそれを覗き込み、興奮すると、ふさふさの尻尾がパタパタと揺れ、それが無意識のうちにニーナの足に絡みついてくることもあった。
「(尻尾!尻尾が当たってるんですけど!くすぐったいし、なんかこう……別の意味で集中できないんですけどー!)」
セレスティ自身は、そういった自分の行動に全く気づいていないようだった。彼女にとっては、それは緊張や集中、あるいは安心感といった感情が、無意識のうちに身体的な行動として現れているだけなのかもしれない。猫が信頼する相手に体を擦り寄せてくるのに似ている。
ニーナは、最初はそういったセレスティの無意識のスキンシップに戸惑い、どう対応していいか分からなかった。しかし、次第に、それがセレスティなりの信頼の証であり、彼女が心を開き始めているサインなのだと理解するようになっていった。
「(まあ、悪気があるわけじゃないしな……むしろ、こうやって少しずつでも私に慣れてくれてるってことなんだろう。SEとしては、クライアントとの信頼関係構築は最重要課題だし?……いや、クライアントじゃないけど)」
時には、セレスティが研究に没頭しすぎて、うっかりニーナの膝の上で寝落ちしてしまう、なんてこともあった。その無防備な寝顔と、すやすやという寝息、そして時折ピクピクと動く猫耳を見ていると、ニーナは、なんだかんだでこの不器用な天才学者のことを、放っておけない妹のように感じ始めている自分に気づくのだった。
「(……しょうがないな、こいつは。でも、まあ……悪くないか、こういうのも)」
ニーナは、苦笑しながらも、セレスティが起きるまで、そっとその寝顔を見守るのだった。
この奇妙で、どこか微笑ましい日常は、ニーナとセレスティの間に、言葉だけではない、温かい絆を育んでいく。そして、ニーナの「他人の評価」という心の傷も、こういった純粋な信頼関係の中で、少しずつ癒されていくのかもしれない。




