コミット 77:『ギャル式コミュ力向上ブートキャンプ!……って、猫耳にギャル語はハードル高すぎ!?』
セレスティが初めて自分の知識で魔法を具現化させた「小さな稲妻」の成功は、彼女に大きな自信と、そして次なる課題をもたらした。それは、依然として深刻な「コミュ障という不具合」の克服だ。いくら素晴らしい知識や魔法技術を持っていても、それを他者に伝え、共有できなければ、その価値は半減してしまう。
「(よし、セレスティさんの『アウトプット』サポートの次は、『コミュニケーション機能』のデバッグだな!この際、俺……いや、私のギャルスキルを総動員して、彼女をリア充……いや、せめて普通に会話できるレベルにまで引き上げてやる!)」
ニーナは、謎の使命感に燃え、「セレスティのためのギャル式コミュ力向上ブートキャンプ」を開講することを勝手に決意した。
「というわけで、セレスティさん!今日から、私がビシバシと、あんたのコミュ力を鍛え上げてやるわよ!目指せ、誰とでも臆せず話せる、イケてる魔法学者!」
「ひゃっ!?こ、コミュ力……ですか……?わ、私なんかが、そんな……む、無理ですぅ……!」
セレスティは、ニーナの勢いに完全に気圧され、後ずさりしている。
「無理じゃないって!まずは、挨拶から!相手の目を見て、ハキハキと!『ちわーっす!今日も一日、よろしくお願いしちゃっていいカンジっすかー!?』みたいな感じで!」
ニーナは、完璧なギャルスマイルとポーズで手本を見せる。
「ち、ちわーっす……?よ、よろしく……おね、がい……うぅ……」
セレスティは、顔を真っ赤にしながら、かろうじて蚊の鳴くような声で挨拶を試みるが、途中で言葉に詰まり、俯いてしまった。その姿は、まるでエラーを起こして処理を中断したプログラムのようだ。
「(うーん、いきなりギャル語はハードル高すぎたか……?いや、でも、SEのOJTだって、最初はみんなそんなもんだ。反復練習あるのみ!)」
ニーナは諦めない。次に、身振り手振りを交えたコミュニケーション術を伝授しようとする。
「いい?言葉だけじゃ伝わらないこともあるからね!そういう時は、こう、手とか身体全体を使って、自分の気持ちを表現するの!嬉しい時は、こうやってピースしたり、びっくりした時は、目を丸くして『マジ卍ー!?』みたいなリアクション取ったりとか!」
ニーナは、大げさなほどのジェスチャーで、様々な感情表現を実演してみせる。セレスティは、それを真剣な表情で見つめ、ぎこちないながらも、一生懸命に真似しようとする。しかし、その動きはあまりにもぎこちなく、ロボットダンスのようになってしまい、逆にシュールで面白い光景を生み出していた。
「(ぷっ……!だ、ダメだ、笑っちゃいけない……!でも、この子の真面目さと、ギャップが、なんかこう……可愛いというか、面白いというか……!)」
ニーナは、笑いを堪えるのに必死だった。
その後も、ニーナによるギャル式コミュ力向上ブートキャンプは続いた。「相手を褒める時は、具体的に、そしてちょっと大げさに!」「会話に詰まったら、とりあえず天気の話か、好きな食べ物の話で繋ぐべし!」「困った時は、テヘペロで誤魔化すのもアリ!」などなど、およそ魔法学者のためのレッスンとは思えない内容ばかりだったが、セレスティは、持ち前の真面目さで、一つ一つ律儀に実践しようと努力するのだった。
その成果は、まだ微々たるものだったかもしれない。しかし、セレスティが、ほんの少しだけ、人と話すことへの恐怖心を和らげ、ニーナに対しては、以前よりもリラックスした表情を見せるようになってきたのは、確かな変化だった。
この奇妙なブートキャンプは、ニーナとセレスティの間に、微笑ましい(そして、どこかズレた)師弟関係のようなものを築き始めていた。




