コミット 76:『「知識のアウトプット」サポート開始!小さな成功体験が、心のバグをデバッグする!?』
ニーナとセレスティの共同研究は、少しずつだが日に日に進展していた。セレスティが持つ古代魔法の膨大な知識は、まるで未整理の巨大なデータベースのようだったが、ニーナが論理魔導のフレームワークを用いることで、その知識を少しずつ「構造化」し、現代でも応用可能な形へと「翻訳」していく作業が進められていた。
しかし、最大の課題は、依然としてセレスティ自身の「知識の『アウトプット』下手」という問題だった。どれほど素晴らしい知識を持っていても、それを実際に魔法として具現化できなければ、宝の持ち腐れになってしまう。
「(セレスティさんの頭の中には、とんでもない量の『設計図』がある。でも、それを実際に『変換』して『実行』する部分が、極端に苦手なんだよな……自分の力を信じられないでいる……)」
ニーナは、セレスティが抱えるであろう過去の辛い経験を慮りつつ、慎重に、そして根気強く、彼女の「アウトプット」作業をサポートすることにした。
「セレスティさん、あの『純粋な雷撃』の魔法、もう一度試してみません?前回、理論上はかなりいい線までいってたじゃないですか」
「で、でも……私なんかが、本当に、あんな高度な魔法を……もし、失敗したら……」
セレスティは、不安そうに俯いてしまう。
「大丈夫だって!今回は、私が魔力制御のサポートしますから!セレスティさんは、頭の中にある『設計図』通りに、魔力の流れをイメージするだけでいいんです。細かい調整は、私がやりますんで!」
ニーナは、セレスティを励ましながら、彼女が持つ知識を具体的な魔法として発動できるよう、手助けを始めた。それは、まさにSEがプログラマーの書いたコードをデバッグし、実際に動作するように修正していく作業に似ていた。
セレスティは、おずおずと、古代文献に記された「雷撃魔法」の魔導回路を思い浮かべる。ニーナは、エレメンタル・ガードナーを通して、セレスティの魔力の流れを繊細に感じ取りながら、彼女のイメージする魔導回路を、自分の論理魔導で補正し、最適化していく。
「そう、その魔力の流れを、もう少しだけ強く……!そして、次の魔石への接続は、こっちのルートの方が安定します!出力タイミングは、今です!」
ニーナの的確な指示とサポートを受けながら、セレスティは、震える手で、小さな魔石の欠片を特定の配列に並べ、そこに自分の魔力を流し込もうと試みた。これは、セレスティにとって、ニーナの論理魔導の考え方を取り入れ、自ら魔法を「構築」する初めての試みでもあった。
すると、次の瞬間。
パチパチッ……!
セレスティの手元で、小さな、しかし確かな稲妻が迸ったのだ。それは、ほんの数センチ程度の、可愛らしいほどの小さな稲妻だったが、紛れもなく、古代魔法の理論に基づき、そしてセレスティ自身の意志で制御された「純粋な雷撃」だった。
「あ……!あ……っ!」
セレスティは、目の前で発生した小さな稲妻を見て、言葉を失い、ただただ目を見開いていた。そして、その猫耳がピクンと大きく震え、瞳からは、大粒の涙がポロポロとこぼれ落ち始めた。
「で、できた……!私の……私の知識が……本当に、魔法に……!私が、魔法を……!」
それは、彼女にとって、初めての「成功体験」だった。自分の知識が、誰にも理解されない無価値なものではなく、実際に世界に影響を与える「力」になり得るのだという、確かな実感。その小さな達成感が、セレスティの心に深く刻まれたトラウマの影に、ほんの僅かな光を差し込ませた瞬間だった。
ニーナは、そんなセレスティの姿を、温かい目で見守っていた。
「(やったな、セレスティさん。これが、『知識を実装する』ってことなんだよ。小さな一歩だけど、これは間違いなく、あんたにとって大きな前進だ。そして、あんたも論理魔導の第一歩を踏み出せたってことだ)」
この小さな稲妻は、セレスティの「心の不具合」を修正するための、そして彼女の才能を世界に開放するための、輝かしい第一歩となるのだった。




