コミット 74:『セレスティの脳内ナレッジベース、アクセス試行!……古代魔法のコード、発見!?』
ニーナによる「論理魔導」の特別講義は、セレスティにとって刺激的ではあったものの、その高度な概念と、ニーナが時折見せる規格外の魔力制御は、彼女をさらに混乱させ、萎縮させてしまうこともあった。
「(うーん、なかなか難しいな……この子の知識欲は本物だけど、それ以上に自己評価が低すぎる。典型的な『インポスター症候群』に近いのかもしれないな。自分の能力を過小評価して、新しいことに挑戦するのを極端に恐れてる……)」
ニーナは、セレスティとのコミュニケーションに苦戦しながらも、彼女の研究室に散らばる膨大な資料や、彼女がぽつりぽつりと語る独り言の中に、驚くべき発見をし始めていた。
セレスティは、普段は極度のコミュ障で、自分の考えをまともに言葉にすることすらできない。しかし、一度、自分の研究テーマである古代魔法の話になると、まるでスイッチが入ったかのように、早口で専門用語を羅列し始めるのだ。その内容は、ニーナにとっても初耳の、極めて高度で専門的な知識ばかりだった。
「……それで、その、古代の『雷を呼ぶ石』は、現代の魔石とは異なる、特殊な魔力振動パターンを持っていて……それを、特定の配列で配置することで、空間の魔力を強制的に励起させ、『純粋な雷撃』を、発生させることが可能だった、という仮説が……でも、その配列の解読が……」
セレスティは、誰に言うともなく、ブツブツと呟きながら、羊皮紙に複雑な図形を描き殴っている。それは、現代の魔法理論では説明のつかない、古代の魔導回路図のようだった。
「(雷撃魔法……?この世界じゃ、雷の属性を持つ魔石自体が極めて希少で、それを制御する技術もほとんど失われてるって聞いたことあるけどな。それを、古代人は魔石の配列だけで……?)」
ニーナは、セレスティが語る断片的な情報と、彼女が描く古代の魔導回路図に、強い興味を惹かれた。それは、ニーナの持つ「論理魔導」の知識体系とは全く異なるアプローチでありながら、どこか通じるものを感じさせたのだ。
「セレスティさん、その『雷を呼ぶ石』の配列って、もしかして、こういうこと?」
ニーナは、セレスティが描いた図形を元に、自分の論理魔導的な思考で、その魔力の流れを再構築し、より効率的で安定したと思われる回路パターンを、別の羊皮紙に描き出してみた。それは、古代の知識と現代の(ニーナ独自の)論理が融合した、全く新しい設計図だった。
セレスティは、ニーナが描いた図面を見て、ハッと息を呑んだ。そして、次の瞬間、彼女の猫耳がピクンと大きく跳ね上がり、瞳がキラキラと輝き始めた。
「あ……!こ、この、魔力の流れ……!この、分岐と収束のさせ方……!もしかして、これで、あの、不安定だった魔力効率が……!?」
セレスティの脳内に眠っていた古代魔法の膨大な知識と、ニーナの論理魔導の思考が、まるで化学反応を起こしたかのように共鳴し始める。セレスティが示す古文書の魔導回路の図形と、ニーナが再構築した論理的な回路パターン。それらが、二人の頭の中で、複雑な光の幾何学紋様として空間に投影されるかのような、強烈なインスピレーションの閃きを生み出していた。それは、実際に魔力が具現化したわけではないが、二人の間には確かに、目に見えない知的な光の奔流が生まれていた。
「(この子、やっぱりとんでもない情報を持ってるぞ……!私の論理魔導だけじゃ限界があったけど、この子の古代魔法の知識と組み合わせれば、もしかしたら、この世界の魔法の常識を覆すような、新しい『システム』が構築できるかもしれない……!)」
ニーナは、セレスティという稀代の天才との出会いに、興奮を隠せないでいた。




