コミット 71:『王都アウレア・シティへの到着!……って、あの猫耳っ娘、挙動不審すぎ!?』
クロスロードでの情報収集を終えたニーナは、いくつかの街道を乗り継ぎ、ついにオーレリア王国の首都、黄金都アウレア・シティへと到着した。その壮麗な城壁と、活気に満ちた街並みは、これまで訪れたどの都市よりも規模が大きく、洗練されているように感じられた。
「(うわー、これが王都か……!さすがにデカいな。クロスロードも大概だったけど、ここは別格だ。人も多いし、魔力の流れもなんかこう……整然としてる感じがする)」
ニーナは、まず城門で簡単な身分照会(ダークエルフであることで多少訝しげな顔はされたが、ヴァローナから貰った紹介状が役に立った)を済ませ、市内へと足を踏み入れた。石畳の道、立ち並ぶ美しい建物、そして行き交う人々の服装も、どことなく上品な印象を受ける。
「(さて、まずは宿探しだな。これだけ大きな街なら、それなりに快適な宿もあるだろ。しばらくはここを拠点に情報収集と、自分のスキルアップに励むとしよう)」
ニーナは、市場や大通りを少し歩き回り、手頃な値段で清潔そうな宿屋を見つけ出すと、早速チェックインを済ませた。部屋に荷物を置き、一息つくと、改めて街の探索へと繰り出すことにした。
王都の中心部には、ひときわ大きな建物が聳え立っている。あれが、おそらく王城だろう。そして、その周辺には、貴族の屋敷や、大きな商店、そして……
「(あれは……マギア・アカデミア?国立の魔法教育・研究機関ってやつか。この世界の魔法技術の最先端が集まってる場所ってことだな。面白そうじゃないか)」
ニーナが、マギア・アカデミアの壮麗な建物を興味深そうに眺めていると、ふと、アカデミアの入り口付近で、奇妙な行動をしている少女の姿が目に入った。
その少女は、小柄で、華奢な身体つきを、ぶかぶかのアカデミックなローブが包んでいた。フードから覗く亜麻色のふわふわとしたショートボブの髪の隙間からは、ぴくぴくと動く大きな猫耳が愛らしく揺れている。前髪の奥には、エメラルドグリーンの大きな瞳が、所在なさげにきょろきょろと周囲を伺っていた。彼女は、両腕に自分の体の半分ほどもあるような大量の書物を抱え、俯き加減で何かをブツブツと小声で呟きながら、アカデミアの門を出たり入ったり、うろうろと挙動不審な動きを繰り返していた。時折、誰かと目が合いそうになると、ビクッと肩を震わせ、慌てて顔を背けてしまう。
「(なんだ、あの子……?完全に挙動がおかしいぞ。大量の書物、人と目を合わせられない、独り言……あれは……典型的なコミュニケーション障害のエラーパターンじゃないか?しかも、あの猫耳と尻尾の動き……緊張と不安で、完全にフリーズ寸前って感じだ)」
前世で、多くの(いろんな意味で)個性的なエンジニアたちと仕事をしてきたニーナにとって、その少女の行動は、ある種の「見慣れた光景」でもあった。しかし、異世界で、しかもこんな可愛らしい猫耳の少女が、そこまで深刻なコミュ障を抱えているとは。
「(これは……ちょっと、放っておけないレベルの「不具合」だな。いや、お節介かもしれないけど、気になるものは気になるのがSEの性分ってもんだ)」
ニーナは、その猫耳の少女から目が離せなくなっていた。この出会いが、彼女の新たなデバッグ作業の始まりになるのかもしれない、そんな予感が胸をよぎるのだった。




