コミット 66:『暴走魔石へのハッキング!制御プログラムは……まさかの「強制終了」!?』
ガラス質の外殻を破壊したものの、暴走する「魔石集積体」から溢れ出す魔力の奔流はさらに勢いを増し、ニーナを押し潰さんとばかりに迫ってくる。絶体絶命の状況で、ニーナは魔石の亀裂から内部の魔導回路に直接アクセスし、その暴走を止めるという大胆な試みに打って出た。
「(この魔石の内部構造、エレメンタル・ガードナーの補助を受けながら、俺の魔力感知で可能な限りスキャンする……!そして、暴走を引き起こしているコアの部分……そこに、強制終了の『命令』を送り込む!)」
ニーナは、ガントレットに全神経を集中させ、魔石の表面の亀裂へと手を伸ばす。指先が亀裂に触れた瞬間、膨大な量の制御不能な魔力が、まるで高圧電流のようにニーナの体を駆け巡った。
「(ぐっ……!この魔力ノイズ、酷すぎる……!まるで、OSがクラッシュ寸前のサーバーにリモートアクセスしてるみたいだ……!)」
意識が遠のきそうになるのを必死で堪え、ニーナは魔石内部の魔導回路の構造を読み解こうと試みる。それは、無数の光の線が複雑に絡み合った、巨大な迷路のようだった。そして、その迷路の中心で、何かが激しく明滅し、異常な信号を発し続けているのが見えた。それが、暴走のコアだ。
「(見つけた……!あそこに、俺の術で作った『強制終了処理』を注入する!でも、内部構造が複雑で、簡単には受け付けない……!何か、この魔石の『クセ』みたいなものを見抜かないと……!)」
ニーナは、暴走する魔力流のパターンを注意深く観察し、その中に、ほんの僅かな「規則性」や「隙間」を見つけ出そうとした。それは、まるで複雑怪奇なスパゲッティコードの中から、たった一つのバグの原因箇所を特定するような、困難な作業だった。
「(この魔石、もしかして……特定の魔力周波数に対して、極端に反応が鈍くなる……?あるいは、特定の『命令』に対しては、無条件で受け入れてしまうような、隠しコマンド的なものが……?)」
SEとしての勘が、そう告げていた。どんなに複雑なシステムでも、設計者の意図しない「裏口」や「脆弱性」は存在する。
そして、数分間の必死の解析の末、ニーナはついに、その「脆弱性」らしきものを見つけ出した。暴走している魔石のコアは、特定の穏やかで周期的な魔力の波長に対して、一瞬だけその防御を緩めるような挙動を見せるのだ。
「(これだ……!この波長に合わせて、強制終了のコマンドを送信すれば、あるいは……!)」
ニーナは、最後の望みを託し、エレメンタル・ガードナーを通して、その特定の波長に乗せた「強制終了」の命令を、魔石のコアへと慎重に送り込んだ。それは、荒れ狂う嵐の中で、一本の細い糸を針の穴に通すような、神業的な精密作業だった。
「――コマンド送信!『魔導終了術式、実行!』」
ニーナの意志と共に、清浄な青い魔力の波が、魔石のコアへと染み込んでいく。
すると、次の瞬間。
あれほど激しく明滅し、暴走していた魔石の光が、ふっと穏やかになった。周囲を圧迫していた魔力の奔流も、まるで嘘のように勢いを失い、静かに収束していく。
「(……やった……のか……?本当に、暴走が……止まった……?)」
ニーナは、信じられないといった表情で、目の前の光景を見つめていた。あれほど危険な状態だった魔力集積石が、今はまるで眠りについたかのように、静かに淡い光を放っているだけだ。
しかし、安堵したのも束の間だった。
パキィィィン……!
静まり返った壺の表面に、新たな亀裂が走り始めたのだ。そして、その亀裂は急速に壺全体へと広がり、次の瞬間、甲高い音と共に、壺は粉々に砕け散ってしまった。
「(なっ……!?壊れた……!?)」
ニーナは、呆然とその光景を見つめる。暴走は止めたものの、壺そのものが限界を超えて崩壊してしまったようだ。後には、残骸と、そして静まり返った洞窟だけが残された。
「(結局、証拠隠滅ってわけか……この壺を設置した奴の目的も、暴走の原因も、これじゃ分からずじまいだな……でも、少なくとも、この洞窟の異常と、霧隠れの森の歪みは、これで解決したはずだ……)」
ニーナは、疲労困憊の体を引きずりながら、洞窟の出口を探し始めた。人為的な魔力操作の形跡は確かにあった。しかし、その詳細は謎のまま。この世界には、まだまだ多くの秘密が隠されているようだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「面白かった!」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひブックマーク登録と、【★★★★★】評価で応援よろしくお願いします!
あなたの応援が、次のコミットに繋がります!




