コミット 61:『幽霊魔物の森!物理法則、ちょっとおかしくないですか?』
「姿形が不安定な魔物」の噂を追って、ニーナが足を踏み入れたのは、「霧隠れの森」と呼ばれる、昼なお薄暗い不気味な森だった。その名の通り、森の奥深くは常に濃い霧に覆われており、方向感覚を失いやすい。
「(うわー、雰囲気ありすぎだろ、この森……完全にホラーゲームの序盤ステージじゃないか。こういうとこって、大抵セーブポイントないんだよなー)」
ニーナは、内心で軽口を叩きながらも、警戒レベルを最大に引き上げていた。エレメンタル・ガードナーは、いつでも起動できるように意識を集中させている。
森の中は、異様なほど静まり返っていた。鳥の声も、虫の音も聞こえない。ただ、濃い霧が木々の間を漂い、時折、不気味な風の音だけが響き渡る。
「(魔力の流れも、なんかおかしいな……霧のせいだけじゃない。空間そのものが、微妙に歪んでる感じがする……)」
ニーナの魔力感知能力が、この森に漂う異常な魔力の気配を捉えていた。それは、まるで弱い電波障害が起きているかのように、魔力の流れが細かく振動し、安定していないのだ。
しばらく森の奥へと進んでいくと、不意に、前方の霧の中に、ぼんやりとした人影のようなものが浮かび上がった。
「(……あれか?噂の魔物……?)」
ニーナは息を殺し、慎重に距離を詰める。霧がわずかに晴れ、その魔物の姿が徐々にあらわになってきた。それは、確かに人型をしていたが、その輪郭は曖昧で、まるで陽炎のようにゆらゆらと揺らめいている。半透明の体は、背後の景色が透けて見えるほどで、物理的な実体があるのかどうかすら怪しい。
「(完全にゴースト系の敵じゃないか……!物理攻撃、効くのかな、これ……?)」
ニーナがそう思った瞬間、その幽霊のような魔物が、音もなくこちらに向かって滑るように移動してきた。その動きは、地面を歩いているというより、空間を漂っているという表現が近かった。
「(とりあえず、様子見で一発……!『炎撃!』)」
ニーナは、ガントレットから小さな火球を放った。しかし、火球は、魔物の体を何の手応えもなくすり抜け、背後の木に当たって霧散してしまった。
「(うわ、マジか!物理無効系!?これ、どうやって倒すんだよ……!)」
SEとして、様々な不具合やシステムエラーに遭遇してきたニーナだが、物理法則そのものがおかしくなっているかのような敵は初めてだった。
「(いや、落ち着け、俺。どんな不具合にも、必ず原因と対処法があるはずだ。この魔物が実体を持たないように見えるのは、もしかしたら、この森の異常な魔力環境のせいで、存在が不安定になってるだけかもしれない。だとしたら……)」
ニーナは、幽霊魔物の動きを注意深く観察しながら、その周囲の魔力の流れを分析する。魔物は、時折、その姿がさらに薄くなったり、逆に一瞬だけ濃くなったりと、不安定に明滅を繰り返している。そして、その明滅のタイミングと、周囲の魔力の揺らぎが、何らかの相関関係を持っているように見えた。
「(なるほど……こいつ、完全に実体がないわけじゃない。周囲の魔力と同期することで、一時的にこの世界に『存在』を固定してるって感じか?だとしたら、その同期のタイミングを狙って、魔力のコアみたいな部分を直接叩けば……!)」
それは、非常に高度な魔力制御と、精密なタイミングの見極めを必要とする、リスキーな戦術だった。しかし、今のニーナには、エレメンタル・ガードナーという強力な「デバッグツール」がある。
「(やってみる価値は、ありそうだな……!この世界の物理法則の不具合、いっちょ修正してやるか!)」
ニーナは、幽霊魔物の不規則な動きに翻弄されながらも、その「存在が濃くなる」一瞬のタイミングを見極めようと、全神経を集中させるのだった。
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