コミット 56:『安堵と疲労!騎士団、祝杯と……ニーナの歓迎会!?』
「嘆きの谷」の最深部で繰り広げられた、魔力流安定化作戦「黒渦封滅作戦」の成功は、騎士団駐屯地に大きな歓喜をもたらした。長らく続いていた天候不順の原因が取り除かれ、魔物の異常発生も沈静化する兆しが見えたことで、騎士たちはもちろん、近隣の村々からも感謝の声が届き始めていた。
その夜、駐屯地の食堂では、ささやかながらも盛大な祝宴が開かれた。普段は質素な食事に甘んじている騎士たちも、この日ばかりは持ち寄った酒や特別な料理を振る舞い、勝利の喜びを分かち合っていた。
「ニーナ殿に乾杯だ!」
「いやあ、あの術は本当にすごかったぜ!」
「これで安心して眠れるってもんだ!」
騎士たちは口々にニーナの功績を称え、彼女の周りには自然と人だかりができていた。最初は戸惑っていたニーナも、彼らの屈託のない笑顔と感謝の言葉に、次第に心が解きほぐされていくのを感じていた。
「(なんか……こういうの、悪くないな。前世じゃ、プロジェクトが成功しても、打ち上げは上司の自慢話を聞かされるだけの苦行だったけど……)」
「他人の評価」を過度に気にするニーナの心の傷は、まだ完全に癒えたわけではない。しかし、ヴァローナや騎士団の仲間たちからの、裏表のない純粋な評価と感謝は、ニーナの自己肯定感を少しずつ、しかし確実に育んでいた。それは、まるで問題だらけだった自己評価の仕組みに、正常なデータが入力され始めたかのような感覚だった。
ヴァローナも、この日はいつもの厳しい表情を少し緩め、部下たちと談笑していた。彼女の顔には、憑き物が落ちたような、晴れやかな色が浮かんでいる。時折、ニーナの方に視線を向け、小さく頷いてみせるその仕草には、確かな信頼と友情が感じられた。
「ニーナ、こちらへ来い」
ヴァローナが、手招きしてニーナを自分の席の隣へと呼んだ。
「これは、君のための歓迎会でもある。改めて、我々騎士団は君を歓迎する」
そう言って、ヴァローナは木製の杯をニーナに差し出した。中には、芳醇な香りのする葡萄酒が注がれている。
「え、歓迎会……?私、もうしばらくしたら、また旅に出るつもりなんですけど……」
ニーナは少し驚いて言った。
「構わん。君がここにいる間は、我々の仲間だ。そして、例えここを去ったとしても、君が我々にしてくれたことを、我々は決して忘れん」
ヴァローナの言葉は、力強く、そして温かかった。
ニーナは、少し照れくさいような、それでいて胸が熱くなるような気持ちで、ヴァローナと杯を交わした。騎士たちの陽気な歌声と笑い声が、食堂を満たしていく。
この賑やかな宴の中で、ニーナは、初めて「仲間」という存在の温かさと重要性を、心の底から感じていたのかもしれない。一人で戦うのではなく、誰かと力を合わせ、喜びを分かち合うこと。それは、前世の孤独なSE生活では決して味わえなかった、かけがえのない経験だった。
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