コミット 52:『ヴァローナ、「決断の遅延」問題発動!?過去のトラウマが判断を鈍らせる!』
「嘆きの谷」が異常気象の原因である可能性が高いとニーナが指摘したことで、騎士団の作戦会議室はにわかに緊張感を増した。ヴァローナは、ニーナの分析を頭から否定することはしなかったものの、その表情は依然として厳しいままだった。
「……仮に、その『嘆きの谷』が原因だとして、我々に何ができる?あの場所は険しく、大規模な部隊を投入するのは困難だ。それに、原因が魔力の流れの異常だとすれば、我々騎士の剣技でどうにかなる問題とも思えん」
ヴァローナの言葉には、慎重さというよりも、どこか決断をためらうような響きがあった。
ニーナは、そのヴァローナの様子に、彼女が抱える「思考の硬直化」という名の心の傷とは別の、もう一つの問題の存在を感じ取っていた。「決断の遅延」。それは、過去の失敗が、彼女の迅速な判断力を鈍らせていることの表れだった。
「(ヴァローナさん、明らかに迷ってるな…あの谷に何かヤバいものがあるって本能的に感じてるんだろうけど、具体的な情報が少ないから、どう動けばいいか決めかねてるんだ。下手に動いて、また取り返しのつかない事態になるのを恐れてる……)」
ギデオンら古参の騎士たちも、ヴァローナのその苦悩を察しているのか、心配そうな表情で彼女を見守っている。
「団長、斥候部隊を派遣し、まずは谷の状況を詳細に調査してはいかがでしょうか?危険が伴う任務ではありますが……」
一人の部隊長が、恐る恐る進言した。
ヴァローナは、その提案にすぐには答えず、しばらくの間、地図上の「嘆きの谷」を睨みつけたまま黙り込んでしまった。彼女の脳裏には、またあの悪夢が蘇っているのかもしれない。「失われた砦」でも、彼女は断片的な情報から敵の行動を予測し、実績のない作戦を立案した。そして、その結果は惨怺たるものだった。
「(魔物の発生状況も不明……谷内部の正確な地形データも不足……そして、もし古代の伝承が事実で大きな力が関わっているとしたら、その規模も性質も全くの未知数……こんな不確定要素だらけの状況で、どう判断しろと……?)」
ヴァローナの金色の瞳が、不安と迷いで揺れている。経験則にない事態、情報が不十分な状況での決断は、彼女にとって最も苦手とするところだった。過去の失敗が、新しい一歩を踏み出す勇気を奪い、思考を袋小路へと追い込んでいく。
「……いや、斥候の派遣はリスクが高すぎる。もし、谷内部で強力な魔物や未知の罠に遭遇した場合、彼らを救出する手立てもない。それに、彼らが持ち帰る情報が、果たしてどこまで信頼できるのか……」
ヴァローナは、弱々しく首を振った。その姿は、いつもの厳格な騎士団長とは程遠い、自信を失った一人の人間のように見えた。
「(あー、もう!この人、本当に『失敗』っていうキーワードにトラウマ植え付けられてるな!これじゃ、いつまで経っても埒が明かないだろ!)」
ニーナは、ヴァローナのその煮え切らない態度に、内心でイライラを募らせた。しかし、同時に、彼女の苦しみも理解できるような気がした。前世の自分もまた、システムトラブルの責任を一身に背負わされ、次のプロジェクトで萎縮してしまった経験があるからだ。
「(でも、だからって何もしないわけにはいかないだろ!このままじゃ、被害が拡大するだけだ!)」
ニーナは、ヴァローナの「決断の遅延」という問題を、何とかして解決しなければならないと感じていた。それは、もはや騎士団だけの問題ではなく、この地域全体の、そして世界の仕組みに関わる問題なのだから。
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