コミット 51:『世界の魔力異常!?騎士団領の天候不順、これもシステムバグ!?』
ライルの一件が解決し、駐屯地に一応の落ち着きが戻った数日後。ニーナは、騎士団の管轄地域で頻発しているという局地的な異常気象の情報を耳にした。ある村では何週間も雨が降り続き、別の村では逆に日照りが続き作物が枯れ始めているという。それはまるで、特定のエリアだけエアコンの設定が狂ったかのような、極端な天候不順だった。
「(うーん、この世界の気象を操る仕組み、どうなってんだろ……局地的な異常って、普通じゃないよな)」
ニーナは、騎士団の作戦会議室の隅で、壁に貼られた管轄地域の地図を眺めながら、SEとしての分析を開始していた。地図には、異常気象が報告されている村々に印がつけられている。
「ヴァローナさん、この天候不順、いつ頃からなんです?」
ニーナは、地図とにらめっこしているヴァローナに尋ねた。
ヴァローナは、難しい顔で腕を組み、重々しく口を開いた。「ここ数ヶ月、徐々に顕著になってきた。最初は単なる季節の変わり目の影響かと思っていたが、どうもそれだけでは説明がつかん。特に、この『嘆きの谷』と呼ばれる地域周辺での異常が著しい」
彼女が指し示したのは、騎士団領の北部に位置する険しい山岳地帯だった。
ニーナは、その「嘆きの谷」という名前に眉をひそめた。
「(この世界の地名って、時々厨二心をくすぐるものがあるよな……いや、今はそんなこと考えてる場合じゃないか)」
彼女のダークエルフとしての鋭敏な魔力感知能力は、その地域に意識を向けるだけで、微弱ながらも不穏な魔力の乱れを感じ取った。それはまるで、空に巨大なノイズ源があり、そこから発せられる不協和音が、周囲の正常な魔力の流れをかき乱しているかのようだった。
「(この魔力の乱れ……単なる天候不順じゃない。もっと根深い、大規模なシステム全体の不具合が影響してる可能性が高いな。そして、あの『嘆きの谷』が、その不具合の『震源地』かもしれない……)」
ニーナの脳裏に、前世で扱った複雑なネットワークの全体像が浮かび上がる。一部の重要な中継地点が故障すると、ネットワーク全体に予測不能な障害が連鎖的に発生する。この世界の魔力の流れも、もしかしたらそれに近い構造を持っているのかもしれない。
「ヴァローナさん、その『嘆きの谷』、何か特別な場所なんです?例えば、古い遺跡があるとか、魔力が溜まりやすい場所だとか……」
「……古い伝承では、かつて古代の民が何か巨大な『力』を封じた場所だとされているが、真偽は定かではない。ただ、確かにあの谷は、他の地域に比べて魔物の発生率がやや高く、魔力の流れも不安定な場所ではある」
ヴァローナは、表情を曇らせて答えた。
「(古代の民が力を封じた……ね。封印が弱まって、中のヤバいモンが暴走し始めてるとか、そういうありがちなパターンか?)」
ニーナは、地図上の「嘆きの谷」の周辺で、魔力の流れが不自然に歪み、まるでブラックホールに吸い込まれるかのように渦を巻いている光景を、魔力視で捉えていた。空の魔力の流れが、そこだけ激しく乱れ、黒ずんだ靄のようなものが漂っている。
「(間違いない。この異常気象は、あの谷を中心とした魔力の流れの仕組みがおかしくなっているのが原因だ。放っておけば、さらに広範囲に影響が拡大する可能性がある。すぐに問題を解決する……それが重要だ)」
ニーナは、この新たな「不具合」の発見に、SEとしての使命感と、そしてほんの少しの好奇心を燃やしていた。この世界のシステムは、一体どれほど複雑で、どれほど多くの脆弱性を抱えているのだろうか。
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