コミット 49:『「他人の評価」と騎士団の視線!?ギャルSE、己の在り方を問う!』
ヴァローナが悪夢にうなされる夜を境に、ニーナは彼女に対して、以前とは少し違う感情を抱くようになっていた。それは、単なる「改善対象の石頭団長」という認識ではなく、深い傷を抱えながらも必死に職務を全うしようとする一人の人間としての、ある種の共感と、そして微かな尊敬の念だった。
しかし、そんなニーナ自身の心にも、相変わらず厄介な不具合が潜んでいる。「他人の評価への過度な意識」という問題だ。騎士団という閉鎖的なコミュニティの中で、ニーナは様々な評価の視線に晒されることになった。
力のデモンストレーションや、トレーニング効率化講座、物資管理システムの改善提案など、ニーナの行動は、騎士団内に少しずつ変化をもたらしていた。
若い騎士たちの多くは、ニーナの能力を素直に認め、「ニーナ姐さん」「ギャル先生」などと呼び、親しみを込めて接してくるようになった。彼らにとっては、ニーナの斬新な発想や、常識にとらわれない行動が、新鮮で魅力的に映るらしかった。
「姐さん、今日の訓練もマジでキツかったですけど、なんかスッキリしました!」
「ニーナさんの魔法、もっと教えてくださいよ!俺もあんなカッコイイの使えるようになりたいっす!」
彼らの純粋な称賛は、ニーナにとって心地よいものだった。前世では決して得られなかった、誰かの役に立っているという確かな実感。それは、ニーナの自己肯定感を少しずつ回復させてくれるかのようだった。
しかし、一方で、古参の騎士たちの中には、依然としてニーナに対して懐疑的な目を向ける者も少なくなかった。
「あの小娘、確かに奇妙な術は使うが……所詮は小手先の技。真の強さとは言えん」
「ギャルなどというふざけた格好で、騎士団の規律を乱すつもりか」
「ダークエルフなど、元々信用ならん種族だ」
そういった陰口や、あからさまな侮蔑の視線は、ニーナの「他人の評価を気にしすぎる」という問題を容赦なく刺激した。その度に、ニーナは前世で経験した、謂れのない非難や責任転嫁のトラウマを思い出し、心がズキリと痛んだ。
「(うっ……やはり、ダメだ……いくら頑張っても、全員に認められるなんて無理なんだ……結局、俺はどこへ行っても『異物』でしかないのか!?)」
自己嫌悪と無力感が、鎌首をもたげる。完璧でありたい、誰からも認められたいという強迫観念が、ニーナを苦しめる。
そして、最もニーナを混乱させたのが、ヴァローナの評価だった。彼女は、ニーナの能力そのものは客観的に評価し、その有用性を認めつつも、ニーナのギャルとしての言動や外見に対しては、依然として厳しい視線を向けていた。
「貴様のその論理的な思考は、時には有効なのだろう。だが、その軽薄な態度は改めろ。騎士は、常に厳格でなければならん」
ヴァローナの言葉は、ある意味で正論だった。しかし、ニーナにとっては、それが「SE斉藤肇」としての自分と、「ギャルニーナ」としての自分の間で、アイデンティティが引き裂かれるような感覚を覚えさせた。
「(俺は……どうすればいいんだ……?SE斉藤肇として、真面目に論理的に振る舞えば、ヴァローナさんには認めてもらえるかもしれない。だが、それじゃ、このギャルの身体でいる意味がないというか、なんかこう、自分を偽っているみたいで気持ち悪いし……)」
「(かといって、ギャルニーナとして、もっとハジけた感じでいけば、若い騎士たちにはウケるかもしれないが、ヴァローナさんや古参の人たちからは、ますます白い目で見られるのがオチだ……)」
どちらの自分も、本当の自分であり、そしてどちらの自分も、完全には受け入れられない。そのジレンマが、ニーナを袋小路へと追い込んでいく。
「(結局、俺は、誰かの期待に応えるために、自分を演じ続けるしかないのか……?前世と、何も変わっていないじゃないか!?)」
ニーナは、駐屯地の片隅で一人、膝を抱えてうずくまった。他人の評価という名の見えない鎖が、彼女の心を縛り付け、身動き取れなくさせている。
そんなニーナの葛藤を、ヴァローナは気づいているのか、いないのか。ただ、時折、訓練の合間や食事の際に、ヴァローナがニーナに向ける視線には、以前にはなかった、どこか探るような、あるいは何かを問いかけるような色が混じっているように、ニーナには感じられた。
それは、ヴァローナ自身もまた、ニーナという「イレギュラー」な存在を通して、自らの凝り固まった価値観に揺さぶりをかけられている証なのかもしれない。
ギャルSEニーナの「心のデバッグ」は、騎士団という新たな環境で、さらに複雑な様相を呈し始めていた。
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