コミット 46:『女騎士とギャルSE、まさかの温泉イベント!……って、この状況、どういうこと!?』
ニーナ式トレーニングが騎士団に浸透し始めたある日の午後。非番だったニーナは、ギデオンから「駐屯地の裏手、森を少し抜けた先に、疲れを癒せる小さな湯治場がある」という情報を聞きつけ、早速足を運んでみることにした。最近、慣れない騎士団での生活と、ヴァローナという名の「超弩級・石頭の困ったちゃん」との格闘で、心身ともに疲れが溜まっていたのだ。
「(温泉!マジか、この世界にもあるのか!これは行くしかないだろう!日頃のストレス、全部洗い流してやる!)」
ウキウキ気分で森の中の小道を進むと、やがて湯気と共に硫黄の匂いが漂ってきた。そこは、大きな岩に囲まれた、まさに野湯といった風情の小さな温泉だった。湯は乳白色で、見るからに効能がありそうだ。幸い、周囲には誰もいない。
「(やった、貸し切りじゃないか!ラッキー!)」
ニーナは、周囲を警戒しつつも、手早く服を脱ぎ捨て、Fカップの胸を揺らしながら、恐る恐る湯に足を入れた。
「あ゛~~~……極楽、極楽ぅ……!やっぱ元日本人としては、風呂はこうでなくっちゃ!」
湯加減もちょうど良く、ニーナは肩までどっぷりと湯に浸かり、至福のため息をついた。前世の激務で凝り固まった肩や腰が、じんわりと解きほぐされていくのを感じる。
「(ふぅ……これで明日からの問題解決作業も頑張れる気がする……って、あれ?)」
ふと、岩陰からガサガサと物音が聞こえた。まさか、魔物!?ニーナは慌てて身構えたが、岩陰から現れたのは、意外な人物だった。
「――む?誰か先客がいたのか」
そこに立っていたのは、湯浴みの準備を整えたヴァローナだった。鎧を脱ぎ、簡素な湯浴み着一枚になった彼女の姿は、普段の厳格な騎士団長のイメージとはかけ離れており、ニーナは思わず目を丸くした。
「(うおっ、ヴァローナさん!?マジか、このタイミングで鉢合わせとか、どういうことだよ!?気まずい、気まずすぎるだろ!)」
ヴァローナもまた、湯の中にいるのがニーナだと気づき、一瞬、その金色の瞳を驚きに見開いたが、すぐにいつもの険しい表情に戻った。
「……小娘か。こんなところで油を売っているとはな」
「いや、油じゃなくて湯ですけど……ヴァローナさんも、湯治に来た感じ?」
気まずい沈黙が流れる。ニーナは、とりあえず当たり障りのない言葉を返したが、内心では冷や汗ダラダラだった。よりにもよって、一番会いたくない相手と裸の付き合い (に近い状況)になるとは。
ヴァローナは、しばらく湯の縁に佇んでいたが、やがて意を決したように、静かに湯の中へと入ってきた。彼女の鍛え上げられた肉体は、鎧の上からでも分かっていたが、こうして間近で見ると、さらに凄まじいものがあった。無駄な脂肪など一切なく、しなやかな筋肉が全身を覆っている。特に、腹筋は美しく割れており、まさにシックスパック。ニーナの豊満なFカップの胸とは対照的な、アスリートのような機能美に溢れた身体だった。
「(うわぁ……ヴァローナさん、本当に腹筋バッキバキじゃないか……同じ女性 (?)として、ちょっと羨ましいかもしれないな……いや、俺のこの見た目も、ある意味最強だが!)」
二人の間には、気まずい空気が流れ続ける。ニーナは、何か話さなければと焦るが、うまい言葉が見つからない。
不意に、ヴァローナが口を開いた。
「……貴様のあの『トレーニング』とやら。騎士たちの間では、存外評判が良いようだな」
「え?あ、まあ……少しは役に立てたなら、嬉しいですけど」
「ふん。効果がなければ、即刻中止させていた。……だが、確かに以前より、騎士たちの動きに無駄がなくなり、体力も向上しているように見える」
ヴァローナは、あくまで客観的な事実として、そう評価した。
「(お、珍しくデレたか?いや、ただの事実報告か……でも、ちょっと嬉しいかもしれないな)」
「ヴァローナさんも、たまにはああいう新しいトレーニング、試してみたらどうです?ガチガチの経験則だけじゃ、身体も凝り固まっちゃいますよー、なんて」
ニーナは、少し調子に乗って言ってみた。
ヴァローナは、一瞬ムッとした表情を浮かべたが、すぐにため息をついた。「……考えておこう」
ふと見ると、ヴァローナの横顔は、普段の厳しさとは違う、どこか物憂げな表情を浮かべているように見えた。彼女の鍛え上げられた肩に、一匹の小さな羽虫が止まった。ヴァローナは、それに気づくと、眉一つ動かさず、しかし驚くほど優しい手つきで、その虫をそっと追い払った。
その不器用な優しさの一端に触れ、ニーナは、ヴァローナという人間の、鎧の下に隠された素顔を少しだけ垣間見たような気がした。この温泉での偶然の出会いは、二人の関係に、ほんの僅かな変化をもたらすのかもしれない。
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