コミット 43:『ヴァローナの騎士団運営、非効率の極み!システム改善、入ります!』
騎士団の駐屯地での生活が数日続いた。ニーナは、ヴァローナから「一時的な保護」という名目で監視されつつも、比較的自由に行動することを許されていた。そして、その自由時間を使って、ニーナは駐屯地内の様々な「システム」を観察し、そのあまりの非効率さに、元SEとして頭を抱える日々を送っていた。
「(この騎士団……戦闘能力は高いのかもしれないが、運営面がひどすぎるぞ!)」
まず気になったのが、物資管理だ。食料や武器、薬草などの備品が、兵舎の隅にある倉庫に無造作に積み上げられているだけで、在庫管理表のようなものは存在しないように見えた。誰が何をどれだけ使ったのか、正確に把握している者はいるのだろうか。
「(これじゃ、いつの間にか備品が不足したり、逆に無駄な在庫を抱え込んだりする典型的なパターンじゃないか!前世で担当した物流に関するシステム開発の仕事で、こういう手書きの管理の会社にどれだけ大変な目に遭わされたことか!) 」
斉藤肇としての記憶が、警鐘を鳴らす。
次に、訓練計画。騎士たちは毎日、朝から晩まで過酷な訓練に明け暮れているが、その内容はみんな同じやり方で、一人ひとりの騎士の能力や特性に合わせた調整がされていないように見えた。ただひたすら同じ動作を繰り返し、根性論で乗り切ろうとしている。
「(すごく無駄が多い!これじゃ、得意な分野は伸びるかもしれないが、苦手な分野は放置されたままじゃないか。しかも、無理な働きすぎで怪我のリスクも高いし、完全に力の無駄遣いだ!)」
そして、情報の伝え方。ヴァローナの命令は、基本的に口頭で伝えられ、それが各部隊長を通じて末端の騎士へと伝達される。しかし、その過程で内容が変わったり、遅れたりすることが頻発しているようだった。重要な連絡事項が書かれた羊皮紙も、どこかに紛失したり、雨で濡れて読めなくなったりと、トラブルが絶えない。
「(報告・連絡・相談の基本がなっていない!こんなんじゃ、緊急時に迅速な対応なんてできるわけないだろう!せめて、簡単な連絡板でも導入すればいいのに!) 」
SE魂が、もう我慢の限界だった。目の前の非効率な仕組みを改善せずにはいられない。それが、たとえ異世界の騎士団であろうとも。
ある日の夕食後、ニーナは意を決してヴァローナの執務室を訪れた。
「ヴァローナさん、ちょっとお時間いいですか?騎士団の運営に関して、いくつか改善案があるんですけど」
ヴァローナは、山積みの報告書 (もちろん手書き)から顔を上げ、訝しげな表情でニーナを見た。
「騎士団の運営だと?小娘、貴様に何が分かると言うのだ」
「いやいや、それが分かるんですよ、意外と。例えば、今の物資管理、完全におおざっぱな管理じゃないですか?あれじゃ、いつ何がなくなるか分かんないし、無駄も多いでしょ。ちゃんと物一つ一つに番号みたいなのを振って、誰がいつ何を持ち出したか記録して、定期的に在庫を確認すれば、もっと効率的に管理できると思うんですよねー。なんなら、そういう手順書とか、簡単な業務フローのたたき台、作ってみましょうか?」
ニーナは、ギャル語を交えつつも、具体的な問題点と改善策を早口でまくし立てた。
ヴァローナは、最初こそ「小娘が何を生意気な」と一蹴しようとしたが、ニーナが提示する具体的な現状の問題点(例えば、今までのやり方だとどのくらい無駄が出るかや、改善した場合のどれくらい効率が良くなるかなど、ニーナが勝手に試算したもの)や、筋道の通った説明を聞くうちに、徐々にその表情を変えていった。
「……貴様の言う『業務フロー』とは何だ?」
「えっと、業務フローっていうのは、作業の順番とかやり方を分かりやすくまとめたもの?とにかく、今のやり方より、もっとスマートに、もっと楽に運営できる方法があるってことですよ!」
ニーナは、異世界の人間に分かるように、SE用語を必死に翻訳しながら説明を続ける。訓練計画の最適化、情報共有のための簡単な連絡板の設置、さらには騎士たちのモチベーション管理に至るまで、その提案は多岐にわたった。
ヴァローナは、腕を組み、難しい顔でニーナの説明を聞いていた。彼女の経験則の中には、ニーナが語るような効率化の手法は存在しない。しかし、その言葉には奇妙な説得力があり、無視できない何かを感じた。特に、物資の損失や情報伝達の遅延は、実際に騎士団が抱えている問題でもあったのだ。
「……貴様の提案、全てを鵜呑みにするわけにはいかん。だが、一部には検討の余地があるやもしれんな」
最終的に、ヴァローナはそう言って、いくつかの点について、より詳細な説明をニーナに求めた。
「(よし、第一関門突破だ!この石頭団長も、完全に話が通じないわけじゃないみたいだな!) 」
ニーナは、内心でガッツポーズを決めた。騎士団という巨大な「昔ながらの仕組み」の改善は、一筋縄ではいかないだろう。しかし、その第一歩は、確かに踏み出されたのだ。
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