コミット 40:『「他人の評価」のアップデート!認められるって……悪くない、かも?』
魔物の群れが完全に殲滅された後、戦場にはしばしの沈黙が流れた。騎士たちは、額の汗を拭い、荒い息を整えながらも、どこか信じられないといった表情で周囲を見回している。先程までの絶望的な状況が嘘のように、今は静寂と達成感だけがそこにあった。そして、その中心には、深紅のガントレットを解除し、少し疲れた表情で佇むニーナと、複雑な面持ちで彼女を見つめるヴァローナがいた。
「……終わった、のか……?」
一人の若い騎士が、掠れた声で呟いた。
「ああ、我々の勝利だ!」
別の騎士が力強く応え、それを皮切りに、騎士団の中から歓声が上がり始めた。
ニーナは、その歓声に少し気圧されながらも、内心ではホッと胸を撫で下ろしていた。エレメンタル・ガードナーの連続使用と、慣れない戦闘指揮で、精神的にも肉体的にも限界に近い。
「(ふぅ……なんとか、強制シャットダウンは免れたか……しかし、本当にギリギリだったな……)」
すると、ヴァローナがゆっくりとニーナに歩み寄ってきた。その金色の瞳は、もう以前のような不信感や侮蔑の色ではなく、困惑と、そしてほんの僅かな敬意のようなものが混じっているように見えた。
「ニーナ、と言ったか」
ヴァローナの声は、まだ硬質だったが、以前のような刺々しさは薄れていた。
「あ、はい。ニーナですけど……」
ニーナは、少し身構えた。また何かお説教でも食らうのだろうか、と。前世での上司からの理不尽な叱責がトラウマとなっているニーナにとって、権威ある立場の人間から詰め寄られるのは、未だに苦手だった。
しかし、ヴァローナの口から出た言葉は、予想外のものだった。
「……今回の戦闘、貴様の働きがなければ、我々は壊滅していたやもしれん。その……感謝する」
絞り出すような、しかし紛れもない感謝の言葉。ヴァローナは、真っ直ぐにニーナの瞳を見つめてそう言った。その表情は、まだどこかぎこちなかったが、嘘偽りのない誠実さが感じられた。
「(え……?か、感謝……?私に……?この、石頭でプライドの高そうな女騎士団長が……?)」
ニーナは、一瞬、自分の耳を疑った。前世では、どれだけ過酷なデスマーチを乗り越え、不可能と言われた不具合を修正しても、上司から感謝の言葉などかけられた記憶はほとんどない。あったとしても、それは次の無理難題を押し付けるための布石でしかなかった。だから、純粋な感謝の言葉というものに、ニーナは極端に免疫がなかったのだ。
「(……あれ?なんか、こう……胸のあたりが、ムズムズする……?なんだこの感覚……?)」
戸惑いながらも、悪い気はしなかった。むしろ、心の奥底から、じわじわと温かいものが込み上げてくるような、そんな感覚。前世のパワハラ上司からの、常に値踏みされ、利用されるための「評価」とは全く違う。これは、自分の能力と行動が、純粋に誰かの役に立ち、そして認められたという証。
「い、いえ、そんな……私も、皆さんに助けてもらったし……お互い様、みたいな?」
しどろもどろになりながら、ニーナはそう答えるのが精一杯だった。ギャル語もどこかへ消し飛んでいた。
ヴァローナは、そんなニーナの様子をじっと見つめていたが、やがてフッと僅かに口元を緩めたように見えた。それは、本当に一瞬のことで、すぐにいつもの厳しい表情に戻ってしまったが。
「貴様のその力、そしてその……ええと、先ほど使っていた奇妙な術は、確かに我々の常識を超えるものだ。認めよう。だが、そのふざけた言葉遣いと身なりは、騎士団の一員として見過ごすわけにはいかんぞ」
「(あ、やはりそっちの説教は続行なのか……!でも、まあ、能力を認めてくれただけマシか……?)」
ヴァローナの言葉は厳しかったが、その口調には、以前のような一方的な拒絶ではなく、どこか相手を理解しようとする意志のようなものが感じられた。それは、ニーナにとって大きな変化だった。
「(他人に認められるって……こういうこと、なのかもしれないな。前世みたいに、ビクビクしながら顔色を伺うんじゃなくて、自分のスキルで貢献して、その結果として正当に評価される……これなら、悪くない、かもしれないな……?)」
ニーナの「他人の評価への過度な意識」という問題は、まだ根深い。しかし、ヴァローナという厳格だが公平な評価者との出会いによって、その問題に初めてポジティブな変化が適用され始めたような、そんな予感がしていた。
この小さな変化が、ニーナ自身の「心のデバッグ」の始まりになるのかもしれない。
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