コミット 4:『論理魔導《ロジカルマジック》発想!……って、魔力コントロール、ムズすぎじゃね?最初の魔法構築、エラー連発なんですけど!』
「あの無駄だらけの魔法、俺の知識で根本から作り変えられるんじゃないか?」
あの日、ルークの頼りない火の玉を見て以来、私の頭はそのことで一杯だった。寝ても覚めても、どうすれば魔力の流れを最適化できるか、どうすれば最小の力で最大の結果を得られるか、そんなことばかり考えていた。
まるで、大規模プロジェクトの問題点を洗い出して解決策を探っていた、前世の日常が蘇るかのようだ。だが、決定的に違うのは、今の私にはあの頃のような絶望感はなく、むしろ未知への挑戦に胸が高鳴っていることだった。
名付けて、「論理魔導」。
魔法を、経験と勘に頼るアナログなものではなく、論理と設計に基づくデジタルな仕組みとして再構築する。それが私の目指すものだ。
とはいえ、構想だけでは意味がない。SEたるもの、まずは試作品を作り、実現可能性の検証を行わなければ。
幸い、この村の周辺には、魔石らしき石ころがゴロゴロ落ちている。村人たちにとっては、たまに夜光石代わりに使われる程度の、何の変哲もない石ころだ。だが、私の目には、それらが未加工の演算ユニットや記憶媒体のように見えた。
私は村の子供たちから、手頃な大きさの、赤みを帯びた石ころを一つ譲り受けた。これが私の最初の「魔法開発」だ。
「(よし、まずは単純な魔力注入からテストだ。特定のパターンで魔力を流し込み、その反応を見る。いわば、魔法の基本動作確認ってとこか)」
人気のない森の奥深く。誰にも見咎められない場所で、私は最初の実験を開始した。
地面にあぐらをかき、例の赤い石ころを目の前に置く。深く息を吸い込み、意識を集中させる。前世では、プログラムを書く際に集中する際によくやっていた精神統一のルーティンだ。
「(イメージしろ、斉藤肇。お前の意思を、明確な『命令』として魔力に乗せるんだ。まずは、ごく微量の魔力を、一定の速度で、この石ころの中心部に向けて……注入!)」
手のひらを石ころにかざし、念じる。すると、自分の体内から、ほんのりと温かいエネルギーのようなものが流れ出し、手のひらから赤い石ころへと向かうのが「見えた」。淡い、糸のような光の線。これが私の魔力か。
だが、その光の線は、まるで風前の灯火のように頼りなく、石ころに届く前にフッと消えてしまったり、途中で明後日の方向に飛んで行ったりと、全く安定しない。
「くそっ、イメージ通りに魔力が動かねぇ……! まるで超原始的な機械語を直接いじってるみたいだぞ、これじゃあ!」
顔をしかめる。思考と魔力の動きが、全く同期しない。例えるなら、最新の高性能な機械で無理やり数世代前の制御システムを動かそうとしているような、そんなチグハグさがあった。魔力量そのものは、この身体のおかげか、そこそこあるように感じる。だが、それを精密にコントロールする術が、今の私にはない。
「(やはり、一朝一夕にはいかないか。魔力操作には、本来それなりの修行と経験が必要なんだろう。この世界の魔術師たちが、何年もかけて感覚を研ぎ澄ますように)」
村で聞いた話では、魔術師になるためには、幼い頃から師匠について厳しい修行を積み、魔力の流れを敏感に感じ取り、それを制御する術を身体で覚えるのだという。知識として体系化されているわけではなく、むしろ職人の技や、ある種の宗教的な行法に近い形で受け継がれているらしい。
「(だが、こちとら締め切り前のSEだぞ。そんな悠長な時間は待ってられねえ! もっと、こう……論理的に、効率的に習得する方法があるはずだ!)」
私は何度も何度も、魔力注入を試みた。汗が滲み、目眩がする。魔力を使いすぎると、独特の倦怠感と共に、軽い吐き気を催す。これが、いわゆる「魔力酔い」というやつか。まるで、徹夜明けにエナジードリンクをがぶ飲みした後のような、不快な感覚だ。
数時間格闘した末、私はついに地面に突っ伏した。
「(だめだ……魔法構築のエラーどころか、魔法の発動すらできない……!)」
初回の実験は、惨憺たる結果に終わった。だが、SEの辞書に「諦める」の文字はない(いや、あるけど見ないふりをするだけだ)。
「(必ず……この論理魔導、完成させてみせる……!)」
私は固く拳を握りしめ、再び赤い石ころと睨み合った。その瞳には、前世で数々の無理難題を乗り越えてきた、不屈のSE魂が宿っていた。
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