コミット 38:『思考の硬直化vs論理の刃!?ヴァローナ、思考の硬直化に亀裂!』
「右から二番目のやつ、次、あんたに突っ込んでくるよ!私が合図したら、カウンター入れて!」
ニーナの叫び声にも似た指示が、ヴァローナの耳に届いた。その言葉には、先程までの苛立ちとは違う、切迫感と奇妙な確信が込められているように感じられた。
「(この小娘……本当に魔物の動きを読んでいるというのか……?ありえん。魔物に知性など……ましてや、攻撃の予備動作を魔力の流れで読むなど……)」
ヴァローナの頭の中では、長年培ってきた経験則が、ニーナの言葉を真っ向から否定していた。「失われた砦」での惨劇以来、彼女は自分の目と経験以外のものを信じることを極端に避けてきた。特に、実績のない理論や、根拠の薄弱な情報に飛びつくことの危険性は、骨身に染みて理解しているつもりだった。
しかし、目の前の状況はどうだ。自分たちが誇る騎士団の戦術は、この異様な魔物たちの前では効果が薄く、ジリジリと追い詰められている。そして、あの小娘――ニーナは、先程、自分たちの常識を覆すような規格外の魔法で、リーダー格の魔物を一撃で葬り去った。あの力は本物だ。
「(……もし、万が一……この小娘の言うことが本当だとしたら……?)」
ほんの僅かな可能性。しかし、今の絶望的な戦況を打破できる唯一の糸口かもしれない。ヴァローナの心の中で、凝り固まった経験則という分厚い氷壁に、小さな亀裂が入る音がしたような気がした。
ニーナの指示通り、右から二番目の魔物に意識を集中する。その魔物は、確かにヴァローナに向かって低い姿勢を取っている。「来るぞ、ヴァローナさん!……今だ!」ニーナの鋭い声が響く。その瞬間、魔物はヴァローナの予測よりもコンマ数秒早く、鋭い爪を振りかざして突進してきた!
「(速い……!だが……!)」
もしニーナの指示がなければ、この奇襲に近いタイミングの攻撃に対応するのは困難だっただろう。しかし、「喉元が光る」という情報を元にしたニーナの完璧なタイミングでの指示によって、ヴァローナは身体が反応するよりも早く、剣を構え直すことができた。
カンッ!!
魔物の爪とヴァローナの剣が激しく衝突し、火花が散る。完璧なタイミングでの防御。魔物の顔には、驚愕の色が浮かんでいるように見えた。
「(本当に……攻撃の直前に……小娘の言う通りに反応できた!)」
ヴァローナは、自分の剣を通して伝わってくる魔物の衝撃を受け止めながら、ニーナの言葉の的確さに驚愕していた。それは、まるで相手の次の手が盤上で読めたかのような、奇妙な感覚だった。
ヴァローナの周囲を覆う、彼女自身の経験と信念を象徴するような硬直した魔力の流れ。それは、これまでどんな外部からの情報も受け付けず、頑ななまでに一定のパターンを繰り返していた。しかし今、ニーナが放った「論理」という名の光の矢が、その硬直した魔力の流れに突き刺さり、波紋を広げているのが、ニーナの目には見えた。それはまだ小さな変化だったが、確実にヴァローナの「思考の硬直化」に影響を与え始めている兆候だった。乱れていた魔力の流れの中に、一条の強い、純粋な赤い光が差し込み、ほんの僅かだが、流れが整い始めている。
「ヴァローナさん、いける!そいつ、今が最大の隙だ!」
ニーナは確信を持って叫んだ。
ヴァローナは、ニーナの声に背中を押されるように、防御から一転、攻勢に出た。魔物の喉元、ニーナが指摘した弱点であろう一点を狙い、渾身の力を込めて剣を突き出す。
「はあああああっ!」
ヴァローナの剣は、寸分の狂いもなく魔物の急所を貫いた。断末魔の叫びを上げる間もなく、魔物は黒い煙となって消滅する。
「(……やった!本当に……小娘の言う通りに……)」
ヴァローナは、自分の剣を見つめ、そしてニーナの方を驚愕の表情で振り返った。そこには、汗を流しながらも、自信に満ちた表情でこちらに頷くギャルSEの姿があった。
この瞬間、ヴァローナの中で、長年信じてきた「経験則」という絶対的な価値観が、初めて大きく揺らいだのを感じた。論理。未知の力。そして、自分には見えないものを見る目。それらが、この絶望的な戦場で、新たな可能性を示しているのかもしれない。
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