コミット 37:『魔物の挙動パターン解析完了!ヴァローナ、あんたの出番だ!』
「炎水流」の一撃は、戦場の空気を一変させた。リーダー格と思われた魔物の消滅は、残りのオオカミ型魔物たちに明らかな動揺を与え、その統率された動きに僅かな乱れを生じさせていた。しかし、依然として数は多く、油断できる状況ではない。
「(……今の攻撃で、だいぶ魔力をパラメータ上限近くまで持っていかれたな……連発は無理だ。でも、こいつらの動き、さっきより単調になってきているか?)」
ニーナは荒い息を整えながら、ガントレットを構え直し、冷静に戦況を分析する。彼女の瞳には、依然として青白いコード紋様が明滅しており、魔物たちの動き、魔力の流れ、そして周囲の環境データをリアルタイムで処理し続けていた。
SEとしての経験が、彼女にパニックに陥ることを許さない。どんな絶望的な状況でも、必ずどこかにシステムの脆弱性――不具合は存在する。それを見つけ出し、利用する。
「(リーダー格がやられたことで、指揮系統に一時的な混乱が生じている……?いや、それだけじゃない。こいつらの攻撃パターン、さっきよりも予測しやすい単純な動きにダウングレードしている気がする)」
ニーナは、魔物の動きを注意深く観察していた。ゴブリンとの戦闘で、その行動の前に特有の魔力変動が付随することに気づきかけていた。この異常なオオカミ型魔物も例外ではないはずだ。
「(……見えた!こいつら、攻撃モーションに入る直前、特定の部位……喉元あたりに一瞬だけ魔力が集中する!まるで、魔法を発動する前の準備動作みたいだ!)」
それは、ほんの僅かな、しかし明確な魔力流の変化だった。その変化を捉えられれば、魔物の次の行動を予測することが可能になる。
「(よし、これで攻撃のタイミングが読める!でも、私一人じゃ、この数を捌ききれない……!やはり、あの石頭騎士団長の力が必要だ!)」
ニーナは、依然として苦戦を強いられているヴァローナと騎士たちに視線を移した。彼らの剣技は確かだが、魔物のトリッキーな動きと異常な耐久力の前に、消耗戦を強いられている。
「ヴァローナさん!聞こえる!?」
ニーナは声を張り上げた。
ヴァローナは、ニーナの呼びかけに一瞬眉をひそめたが、先程の規格外の魔法の威力を見て、完全に無視することもできないようだった。「……何だ、小娘!見ての通り、今は手が離せん!」
「あの魔物ども、よく見て!攻撃してくる直前、喉元が一瞬、紫に光るみたいなんだ!そこが狙い目だと思う!」
「何を馬鹿なことを……!」
ヴァローナは反射的に反論しかけた。魔力の集中など、彼女の経験則にはない。
「いいから信じてやってみてくれ!あんたのそのカッチコチの経験則(過去のデータ)、そろそろアップデートする時期なんじゃないのか!?」
ニーナは苛立ちを隠さずに叫んだ。今は悠長に説得している時間などないのだ。
「(この魔物の行動パターン、特定のきっかけ……例えば、騎士が防御姿勢を取ったり、一定距離まで近づいたりすると、喉元の魔力チャージを開始して、その約3秒後に突進攻撃、という感じだ!このパターンさえ分かれば……!)」
ニーナの脳内では、魔物の動きの軌跡が光の線としてシミュレートされ、最適な迎撃タイミングが割り出されていく。
ヴァローナは、ニーナのあまりにも自信に満ちた口調と、その瞳に宿る真剣な光に、一瞬言葉を失った。本当にこの小娘は、自分たち熟練の騎士でも捉えきれない何かを「見て」いるというのか?
「(……喉元が、光る……?)」
半信半疑ながらも、ヴァローナは目の前の魔物の一体に意識を集中する。そして、ニーナの言葉を頼りに、その動きを注視した。魔物が次の攻撃に移ろうとした瞬間、ヴァローナには見えなかったが、ニーナが叫んだ。「今だ、ヴァローナさん!そいつの喉元が光った!」
「(まさか……本当に……!?)」
驚愕するヴァローナに、ニーナの指示が再び飛ぶ。
「右から二番目のやつ、次、あんたに突っ込んでくるぞ!私が合図したら、カウンター入れて!」
ヴァローナは、ニーナが指し示した魔物を見た。その魔物は、確かにヴァローナに向かって低い姿勢を取っている。
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