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『ギャルエルフ』になった社畜SEの俺、転生先が『バグだらけの世界』だったので『デバッグ』することになりました!――ギャルSEの異世界デバッグ!  作者: AKINA
フィーチャー2:『騎士団長と謎の魔物!?~論理と経験則の衝突、そして協調~』

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コミット 34:『トラウマの残滓!?ヴァローナの瞳に映る「失われた砦」の悪夢!』

騎士団の苦戦は続いていた。魔物たちの連携はますます巧妙になり、騎士たちは徐々に疲弊の色を濃くしていく。ヴァローナは獅子奮迅の戦いぶりを見せていたが、彼女の額にも脂汗が滲み、呼吸が荒くなっているのが見て取れた。


「(くそっ! なぜだ…… なぜ私の剣が、こ奴ら如きに……!) 」


焦りがヴァローナの太刀筋を僅かに鈍らせる。その一瞬の隙を、魔物が見逃すはずもなかった。一体の魔物が低い姿勢からヴァローナの馬の脚を狙って飛びかかってきた。


「しまっ!」


咄嗟に馬を操り、攻撃を回避しようとするヴァローナ。だが、その瞬間、彼女の金色の瞳が大きく見開かれ、動きがコンマ数秒、凍りついた。


彼女の脳裏に、鮮明な悪夢が蘇っていた。


――――燃え盛る砦。降り注ぐ魔物の咆哮。絶叫を上げて倒れていく部下たちの姿。そして、自分の判断ミスが招いた、取り返しのつかない結末。


あれは数年前、国境近くの「灰色狼の砦」と呼ばれる重要な拠点でのことだった。当時、若くして騎士団の一部隊を任されていたヴァローナは、魔物の大群による砦への襲撃という未曾有の事態に直面した。養成所では常にトップクラスの成績を収め、兵法書を読み込み、論理と定石に基づいた戦術こそが勝利への道だと信じて疑わなかった彼女は、斥候からもたらされた断片的な情報を元に、魔物の侵攻ルートと戦力を「完璧に」予測したつもりだった。


彼女が立案したのは、この砦では過去に実施したことのない作戦だった。まず、砦の正面ゲートは敢えて手薄に見せかけ、魔物の主力を誘い込む。そして、魔物がある程度砦内部に侵入したところで、隠しておいた伏兵で両翼から挟撃し、同時に城壁の上から集中的な魔法攻撃と弓矢を浴びせかけ、一気に殲滅するというものだった。理論上は、最小限の被害で最大限の戦果を上げられるはずの作戦。部下の中には、この地の魔物を知り尽くした古参の兵も多く、あまりにも大胆すぎる、あるいはこれまでの魔物の習性から外れているのではないか、と懸念を示す者もいたが、ヴァローナは提示された複数の戦術案の中から、最も効果が高いとされたその作戦の採用を決定した。「私の選んだ戦術に間違いはない」と。


しかし、現実は非情だった。魔物の群れは、ヴァローナの予測を遥かに超える規模であり、そして何より、ヴァローナの想定とは異なる動きを見せたのだ。正面ゲートに殺到すると見せかけた主力部隊は陽動で、本隊は誰も予想しなかった砦の裏手、防御の薄い崖側から奇襲をかけてきた。しかも、その中には地中を掘り進む能力を持つ魔物まで混じっており、砦の地下から次々と兵士たちが襲われた。


ヴァローナの「完璧な戦術」は、開始早々に瓦解した。砦は内外からの攻撃で瞬く間に混乱状態に陥り、阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。ヴァローナ自身も必死に戦ったが、次々と倒れていく部下たち、燃え落ちる砦を前に、自分の選択がいかに脆く、現実の前では無力であったかを思い知らされた。


「団長! お逃げください! ここは我々が!」そう言って血路を開こうとした副団長、長年の親友でもあった彼の最期の顔が、今も脳裏に焼き付いて離れない。


結局、砦は陥落し、ヴァローナは僅かな手勢と共に辛うじて脱出したが、多くの部下と、そして自らの信念を失った。この「失われた砦」の悪夢は、以来ずっと彼女を(さいな)み続けている。そして、この経験が、「経験則に基づかないものは信用できない」 「自分の目で見たもの、経験したこと以外は信じない」という頑なな思考の硬直化を生み出す原因となったのだ。理論や理屈に頼った結果が、あの惨劇だったのだから。


「――団長ッ!!」


部下の切迫した声で、ヴァローナは悪夢から引き戻された。目の前には、大きく口を開けた魔物の顎が迫っている。硬直は致命的な隙を生んでいた。


「(また…… 私は…… 同じ過ちを……!) 」


絶望がヴァローナの心を覆い尽くそうとした、その時。


「——————邪魔!」


甲高い、しかし妙に間の抜けたような声と共に、何かが魔物の側頭部に直撃した。石ころだ。ニーナが咄嗟に投げつけた、ただの石ころ。威力などたかが知れている。しかし、完全に油断していた魔物は、その予期せぬ一撃に僅かに怯み、動きを一瞬止めた。


そのコンマ数秒が、ヴァローナにとっては千金にも値した。


「(小娘が!)」


ヴァローナは悪夢を振り払い、反射的に剣を振るう。魔物の首が宙を舞った。


しかし、安堵する暇はない。他の魔物が、ヴァローナの体勢が崩れたのを見逃さず、一斉に襲いかかってくる。


「(ヤバい、完全に包囲された!)」


ニーナの目には、ヴァローナを中心として、魔物たちがまるでプログラムされた最適解を導き出すように、完璧な包囲網を形成していくのが見えた。それは、個々の魔物の知性というより、もっと大きな「何か」によって制御されているかのような、不気味な連携だった。


世界のシステムが、ヴァローナという「イレギュラー」を排除しようと、最適化された攻撃パターンを実行しているかのようだった。

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