コミット 28:『道中の小さなバグ修正!隣村の「枯れた井戸」と魔力の淀み!?』
初めての本格的な野宿で心身ともに疲弊しきったニーナだったが、情報収集と物資調達の旅を止めるわけにはいかない。王都アウレア・シティへの本格的な旅立ちの前に、少しでも多くの情報を集め、準備を整える必要があった。 拠点としている村から数時間歩いたところにある隣村。その村もまた、どことなく活気がなく、すれ違う村人たちの表情も暗い。
「(なんだか、この村……空気が重いな)」
ニーナは本能的に、この村が何らかの問題を抱えていることを感じ取った。村の中心部にある広場には、古びた井戸があったが、それは完全に干上がっているようだった。村人たちは、遠くの川まで水を汲みに行っているらしい。
「すみません、ちょっとお尋ねしたいのですが……」
近くで畑仕事をしていた老婆に声をかけると、老婆は訝しげな顔でニーナを見た。
「この村の井戸、どうして枯れてしまったんですか?」
「さあねぇ……もう何年も前から、少しずつ水が出なくなってね。今じゃ一滴も出ないよ。おかげで、水汲みが大変でねぇ……」
老婆は深いため息をついた。
「(井戸が枯れる……ね。単なる水脈の変化か、それとも……)」
ニーナは井戸の周囲の魔力の流れに意識を集中した。すると、やはり、あの嫌な感覚があった。以前、拠点としている村の家畜小屋で感じたのと同じ、黒ずんだ靄のような魔力の淀み。それは井戸の底から湧き上がり、村全体を覆っているかのように感じられた。
「(これも、世界のシステムの不具合の影響か……?この魔力の淀みが、地下水脈の流れを邪魔しているのかもしれない)」
放っておけない。このままでは、この村はますます寂れていくだろう。ニーナは老婆に断り、井戸の縁に腰掛け、そっと手をかざした。論理魔導は、あくまで魔力の流れを整流化し、淀みを取り除くことしかできないが、それでも何もしないよりはマシだろう。
「(まずは、淀みの中心核を特定……あった。井戸の真下、かなり深い位置だ。ここの魔力の流れを調整し、淀みを押し流す必要があるな)」
脳内で、複雑な魔力操作の指示を組み立てる。今回は、単純な調整だけでは足りなさそうだ。淀みの影響を受けない新たな魔力の流路を「作り出し」、それを井戸の底の魔力に「つなげる」イメージ。
「(一連の指示、セット。魔力の流れを最適に、開始!)」
ニーナの瞳が淡く光り、コード紋様が浮かび上がる。両手から放たれた青白い光の線が、井戸の暗い底へと吸い込まれていく。それはまるで、熟練の技術者が繊細な配線作業を行うかのように、淀んだ魔力の流れを丁寧に解きほぐし、新たな清浄な流れを形作っていく。 しばらくの間、集中力を極限まで高めて魔力を操作し続ける。額には玉のような汗が浮かび、呼吸も荒くなる。
そして、不意に、井戸の底からゴポゴポという微かな音が聞こえてきた。
「(……来たか!)」
次の瞬間、干上がっていたはずの井戸の底から、少しずつ水が湧き出し始めたのだ!最初は泥水混じりだったが、徐々に澄んだ水へと変わっていく。
「水が……水が出たぞ!」
その光景を見ていた村人たちから、驚きと喜びの歓声が上がった。ニーナは、やり遂げた達成感と、心地よい疲労感に包まれながら、そっと微笑んだ。
「(よし、応急処置完了……っと言いたいところだが、これも根本的な解決じゃないんだろうな)」
世界のバグは、こんな小さな村の井戸一つとっても、その根深さを感じさせる。それでも、目の前の問題を一つ一つ解決していくこと。それが、今の自分にできる唯一のことだった。
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