コミット 24:『「他人の評価」バグ、再発警報!村人の期待が重いんですけど!』
ニーナが開発した論理魔導応用ツールは、村人たちの生活を確実に、そして劇的に改善していった。自動火起こし器は朝の支度を楽にし、簡易水フィルターは安全な飲み水を供給し、改良型揚水装置は水汲みの重労働から人々を解放した。 その結果、ニーナは村人たちから絶大な信頼と称賛を浴びるようになっていた。
「ニーナちゃんのおかげで、本当に助かってるよ!」 「あんたは、まるで天からの遣いじゃ!」 「何か困ったことがあったら、まずニーナちゃんに相談だ!」
最初は、その純粋な感謝の言葉が素直に嬉しかった。前世では決して得られなかった、誰かの役に立っているという確かな実感。それは、ニーナの荒んでいた心に、温かい光を灯してくれるかのようだった。 しかし、日を追うごとに、その称賛と期待は、徐々に重圧となってニーナの肩にのしかかり始めた。
「(やめてくれ……そんな期待に満ちた目で見ないでくれ……!)」
村で何か問題が起きるたび、あるいはニーナが開発した装置の魔力が切れるたび、村人たちは真っ先にニーナを頼ってくるようになった。「できて当たり前」という無言のプレッシャーが、ニーナをじわじわと追い詰めていく。
それは、前世で経験したトラウマ――システムの問題の責任を一方的に負わされ、周囲からの非難と冷たい視線に晒され続けた悪夢の日々――を鮮明に思い出させた。あの時も、最初は期待されていたのだ。「斉藤なら何とかしてくれる」と。そして、その期待に応えようと必死にもがいた結果、待っていたのは絶望だけだった。
「(また、同じことになるんじゃないか……?期待させて、失望させて……結局、俺は誰の役にも立てないんじゃないか……?)」
自己肯定感の低いニーナにとって、「他人の評価」は常に自分の価値を測る唯一の指標だった。そして、その評価がポジティブなものであればあるほど、それを失うことへの恐怖もまた増大していく。
「ニーナちゃん、ちょっとお願いがあるんだけど……」
村人に声をかけられるたびに、心臓がドクンと跳ねる。今度はどんな難題が待ち受けているのだろうか。もし、期待に応えられなかったら……?
「(ああ、もう、胃が痛い……SEは基本、裏方なんだよ!こんなに矢面に立たされるのは、俺の仕事の範囲外だっつーの!)」
かつての致命的な問題が再発し、ニーナの精神を蝕んでいく。村人たちの善意の期待が、今の彼女には鋭い刃のように感じられた。嬉しいはずなのに、苦しい。感謝されているはずなのに、逃げ出したい。そんな矛盾した感情の中で、ニーナの自己肯定感は再び大きく揺らぎ始めていた。
「(このままじゃダメだ……村人たちの期待に応え続けるだけでは、いつか必ずパンクする。でも、彼らの役に立ちたいという気持ちも嘘じゃない。だとしたら……もっと根本的な問題解決に取り組むべきなのかもしれない。この村だけでなく、もっと広範囲に影響を及ぼしている『世界のバグ』そのものを……!そうすれば、この小さな村への過度な期待も分散されるかもしれないし、何より、SEとしての俺の仕事はそこにあるはずだ!)」
苦しみの中でも、ニーナの心には新たな目標が芽生え始めていた。他人の評価に振り回されるのではなく、自らの意志で巨大なバグに立ち向かう。その先にこそ、真の達成感と、この世界で生きる意味が見いだせるのかもしれない。その思いが、次の大きな一歩を踏み出す原動力となりつつあった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「面白かった!」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひブックマーク登録と、【★★★★★】評価で応援よろしくお願いします!
あなたの応援が、次のコミットに繋がります!




