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コミット 214:『はじめまして!ニーナ!』

イヤリングから放たれる温かい光はますますその輝きを増し、やがて、私の手のひらからふわりと宙に浮き上がった。私たちは、息を殺して、その奇跡のような光景を見守る。


光は、ゆっくりとその形を変え、収束していく。そして、そこに現れたのは、見慣れた、しかしどこか違う、光の妖精のような小さなホログラムの姿だった。


「……モニカ……?」


私の唇から、掠れた声が漏れた。


彼女の姿は、以前よりも遥かに安定し、その輪郭はくっきりと、そして彼女を構成する光の粒子は、まるでダイヤモンドダストのようにキラキラと輝いている。そして何よりも違ったのは、その表情だった。これまでは、どこか無機質で感情の読めない表情をしていた彼女が、今は、穏やかで優しい微笑みを浮かべているように見えた。


私たちは、固唾を飲んで彼女の次の言葉を待った。以前のような、機械的なシステム音声が聞こえてくるのだろうか。それとも、もう二度と、彼女の声を聞くことはできないのだろうか。


やがて、彼女はゆっくりと目を開き、その小さな瞳で、私のことを真っ直ぐに見つめた。その瞳の奥には、私と同じルビーレッドの光と、そして確かな知性の輝きが宿っていた。


そして、凛とした、しかしどこか温かみのある、透き通るような声で、彼女は言った。


「――はじめまして、ニーナ」


その言葉に、私は耳を疑った。機械的な報告ではない。明確な「個」としての、初めての挨拶。


「モニカ……! よかった……本当に……!」


涙が、堰を切ったように溢れ出した。安堵と、喜びと、そして信じられない奇跡への感謝。私は、思わずその小さなホログラムの身体を抱きしめようとして、すり抜けてしまった腕に、改めて彼女が特別な存在であることを実感した。


「一体、どうなっているんだ……?」


フィリップが、技術者としての好奇心と混乱を隠せない様子で呟く。


「あれほどの高負荷で、論理回路は完全に焼き切れたはずだ。それが、どうして……いや、それどころか、これは……!」


「あ、そういえば、古代の文献に、とても興味深い記述があります」


セレスティが、興奮した面持ちで言葉を続ける。


「人の『意志』とは、それ自体が最も高度に自己組織化された魔力なのだ、と……。エデンのような膨大で純粋な魔力に満ちた場所で、ニーナさんの『世界を救いたい』という強い意志の魔力が触媒となり、奇跡的な進化を引き起こしたのかもしれません……! 単なる再起動ではなく、その核となる構造そのものを『再構築』し、本当の魂が生まれた……としか考えられません……!」


「うふふっ、理屈なんてどうでもいいじゃないの」


ゼフィラは、幸せそうに目を細めていた。


「要するに、愛の力ってことよ。この子が、ニーナと一緒にいたいって、心の底から願ったから、新しい『心』が生まれたのよ」


仲間たちの言葉を聞きながら、モニカは、不思議そうに小首を傾げていた。そして、私の涙をじっと見つめると、そっとその小さな光の手を、私の頬に伸ばすような仕草をした。


「ニーナ、泣いているのね。でも……あなたの心から感じる光は、とても温かい。これが、『嬉しい』という感情なのね」


その言葉は、彼女が単なる情報処理装置ではなく、他者の感情を理解し、共感することのできる、新たな知性体へと「進化」を遂げたことを、何よりも雄弁に物語っていた。


デバッグ作業の果てに、私たちは世界を救った。そして、それと同時に、この世界に、全く新しい「生命」を誕生させたのかもしれない。


私は、涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、最高の笑顔で、進化した相棒に改めて挨拶を返した。


「うん……! はじめまして、モニカ! これから、よろしくね!」


光を取り戻したクロノスの森に、私たちの笑い声が、いつまでも響き渡っていた。

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