コミット 211:『世界のデバッグ、最終フェーズへ!』
巨大な魔物の出現に、一瞬、私たちの間に絶望がよぎった。だが、モニカの冷静な声が、その闇を打ち払う。
『――脅威パターン、照合完了。最適な迎撃プランを提案します』
私の意識に、モニカから膨大な情報が流れ込んでくる。それは、目の前の巨大魔物の構造分析、行動パターン予測、そして、私たちの能力を最大限に活かした、一点突破の連携攻撃プランだった。
「(すごい……! これなら、いける……!)みんな、聞こえる!? モニカが最高の作戦を立ててくれた! 一発逆転の、超精密連携攻撃だよ!」
私は、サイバー攻撃への対処を続けながら、仲間たちにモニカの作戦を共有する。それは、五人の力を、コンマ数秒の誤差もなく同期させなければ成功しない、極めて難易度の高い作戦だった。しかし、今の私たちならできる。クロノスの森の試練を乗り越え、心を一つにした私たちなら。
「――面白い。やってやろうじゃないか!」ヴァローナが、獰猛な笑みを浮かべる。
「全ては、ニーナさんのロジックの通りに!」セレスティが、杖を握りしめる。
「私の技術の真価、見せてやろう」フィリップが、ライフルのスコープを調整する。
「うふふっ、最高にスリリングねぇ。私の愛、見せてあげるわ」ゼフィラが、妖艶に微笑む。
作戦開始!
まず、ゼフィラが動いた。
「みんなの心に、愛の光を! 『信頼の聖域』、最大展開!」
彼女の翼から放たれる守護の光が、巨大魔物の放つ精神汚染の波動を完全に中和する。
『敵性魔力体の精神干渉能力、98パーセント減衰!』モニカの冷静な分析が響く。
次に、セレスティが杖を天に掲げた。「古代の叡智よ、真実を照らせ! 『千里眼の術』!」彼女の瞳がエメラルドグリーンに輝き、古代の索敵魔法が、モニカの解析データを補助する。
『敵性魔力体の魔力循環、可視化完了。コア座標、特定完了!』
「そこか!」
フィリップのライフルが咆哮を上げる。放たれたのは、通常の風の弾丸ではない。彼がこの時のために開発した、特殊な「魔力撹乱弾」。弾丸は、セレスティが特定した魔物の核――胸部で一際禍々しく輝くポイント――に寸分の狂いもなく着弾した。物理的なダメージはない。しかし、着弾した瞬間、魔物の核の魔力循環が、ほんの一瞬だけ、激しく乱れる。
『コア機能、一時的に不安定化! 物理防御力、73パーセント低下! 持続時間、予測3.4秒!』
「今だ、ヴァローナ!」
その瞬間を、ヴァローナが見逃すはずもなかった。彼女は、ゼフィラのエンカレッジで強化された身体能力を最大限に解放し、まるで赤い流星のように、巨大魔物の懐へと突貫する。
「はあああああっ!」
渾身の力を込めた一撃が、防御力の低下した核へと叩き込まれた。硬い外殻が砕け散り、内部の生々しい魔力の奔流が露わになる。
そして、とどめは私だ。
仲間たちが命がけで作り出してくれた、ほんの数秒のチャンス。私は、システムの内部攻撃を防ぎながら、全ての意識を外部の戦闘へと向ける。
「(いっけぇぇぇぇぇ! このバグだらけの魔物に、最高の修正パッチをくれてやる!)論理魔導、最大出力! 『聖なる再起動』!!」
エレメンタル・ガードナーから放たれた、浄化のロジックを組み込んだ純白の光の奔流が、ヴァローナがこじ開けた傷口から、魔物の核へと直接叩き込まれた。
「ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」
断末魔の絶叫が、エデン全体を震わせる。巨大な魔物の身体は、内側から浄化の光に満たされ、その禍々しい黒紫色の魔力は、美しい光の粒子へと変換されていく。そして、次の瞬間、大爆発と共に、その存在は完全に消滅した。
後に残されたのは、静寂と、疲労困憊でその場に膝をつく、私たち五人の姿だけだった。
「……やった……やったわ、みんな……!」
私たちは、互いの顔を見合わせ、勝利を分かち合った。これで、ようやくデバッグ作業に集中できる。私は、仲間たちに守られるように円陣の中心に座り込み、再び意識をシステムの深淵へと沈めていった。世界の運命を賭けた、本当の戦いは、まだ始まったばかりなのだから。




