コミット 210:『システムの反作用!?暴走する魔物の群れ!』
けたたましい音と共に、私たちの介入によって行き場を失った膨大な魔力の淀みが、暴走を開始した。それは、システムの歪みそのものが、私たちを排除するために実体化した、純粋な破壊の化身だった。
「来るぞ!」
ヴァローナの鋭い声が、緊迫した空気を切り裂く。
最初に姿を現したのは、空間の至る所に走った黒い亀裂から溢れ出してきた、不定形で禍々しい魔物の群れだった。その身体は、まるで黒い粘土をこねて作ったかのように絶えず形を変え、顔のない頭部には、赤い光が憎悪のように揺らめいている。
「クロノスの森で見た、あの魔力の淀みの塊……! それが、ここでは無限に湧き出している!?」
セレスティが、戦慄の声を上げる。
それだけではなかった。魔物の群れは、施設の床や壁面を構成する素材を取り込み、自らの身体を再構築し始めた。あるものは鋭い刃を生やし、あるものは硬い装甲を纏い、次々とその姿をより戦闘的なものへと変貌させていく。
「うふふっ、お出ましねぇ。ずいぶんと手荒い歓迎じゃないの」
ゼフィラは、不敵な笑みを浮かべながら、その美しい翼を広げた。
「ヴァローナ! 前衛は任せたわ!」 「言われるまでもない!」
ヴァローナとゼフィラは、阿吽の呼吸でそれぞれの役割を理解し、敵の群れへと突撃していく。ヴァローナは、パーティの揺るぎない盾として魔物たちの猛攻を正面から受け止め、その長剣で次々と敵を切り伏せていく。彼女の剣筋は、もはや過去の迷いを完全に振り払ったかのように、力強く、そして洗練されていた。
ゼフィラは、戦場を舞う蝶のように魔物たちの間をすり抜けながら、光と闇の魔法を放つ。彼女の魅了の力は、純粋な魔力の塊である魔物には効果が薄いようだったが、その代わりに、仲間たちの士気を高めるエンカレッジの光が、戦場全体を温かく包み込んでいた。
「フィリップさん! あの魔物たち、クロノスの番人と同じで、身体のどこかに魔力が集中する『核』があるはずです! そこを狙ってください!」
セレスティが、古代の文献から得た知識を叫ぶ。
「分かっている!」
フィリップは、後方でライフルを構え、冷静にスコープを覗き込んでいた。彼の指が引き金を引くたびに、風の弾丸が正確に魔物の核を撃ち抜き、その動きを停止させていく。彼は、もはや孤独な職人ではない。仲間を守るための、信頼できる狙撃手だった。
激しい戦闘が繰り広げられる中、私はシステムの深淵で、別の戦いを強いられていた。
「(くそっ、防衛機構だけじゃない……! システム内部からも、直接攻撃してきてる……!)」
私の意識に、大量のジャンクデータや、悪意のあるトラップコードが、まるでウイルスのように流れ込んでくる。それらは私の思考を混乱させ、デバッグ作業を妨害しようとする、システムからの直接的な抵抗だった。私は、論理魔導で次々とファイアウォールを構築し、侵入してくる不正なコードを駆除していく。それは、まさにSEとしての腕が試される、熾烈なサイバー戦だった。
仲間たちが、物理的な脅威から私を守ってくれている。だから、私は、この論理の戦場で絶対に負けるわけにはいかない。
『ニーナ! 右翼から、大型の魔物が接近!』
ヴァローナの切迫した声が、私の意識に届く。
ハッと現実世界に意識を戻すと、そこには、これまでの魔物たちとは比較にならないほど巨大な、歪んだ魔力の塊が、おぞましい姿を形成しながら迫ってきていた。その両腕は、渦巻く黒曜石の槍と、魔力の弾丸を連射する無数の触手のようになっており、その威圧感は、クロノスの番人すらも上回るかもしれない。
「(ボスキャラのお出ましってワケ……!?)」
仲間たちの顔に、一瞬、絶望の色が浮かぶ。私もまた、システムの内部からの攻撃で、集中力が削がれつつあった。
まさに、絶体絶命。その時だった。
『――脅威パターン、照合完了。最適な迎撃プランを提案します』
モニカの、冷静で、しかしどこか力強い声が、私の耳元で響いた。




