コミット 205:『古の理の門:古代紋様の防護障壁』
エデンの内部へと足を踏み入れた私たち。しかし、その荘厳な光景に見とれていたのも束の間、私たちの行く手を阻むように、広大な回廊の奥から淡い七色の光を放つ半透明の魔導防壁が、静かに姿を現した。
「これは……!?」
ヴァローナが警戒して剣を構える。障壁からは物理的な圧力は感じられない。しかし、その表面には無数の幾何学的な紋様が、まるで生きているかのように明滅を繰り返しており、迂闊に近づけばただでは済まないであろう強大な魔力が込められているのが見て取れた。
「ただの魔力障壁ではないな。何か、複雑な術式が組み込まれているようだ」
フィリップが、解析するように目を細める。
その時、セレスティがハッと息を呑んだ。
「この紋様……古代アーキテクトの魔導回路です! 文献でしか見たことがありませんでしたが、これは、特定の論理構造に基づいて魔力の流れを制御する、一種の『防衛術式』のようなもの……! この障壁は、正しい『鍵』となる魔力パターンを示さなければ、決して通してはくれないはずです!」
「防衛術式、ね。面白くなってきたじゃない!」 私のSEとしての血が騒ぐ。目の前にあるのは、まさに古代のファイアウォールだ。
「セレスティ、あんたにしか解読できない! この術式の仕様を教えて!」 「は、はいっ!」
セレスティが、障壁に浮かぶ古代の紋様を、驚異的な速さで解読していく。
「ニーナさん! この部分の関数は、おそらく術者の魔力波形を特定のパターンに変換し、『鍵』を生成するものです! 正規の鍵のパターンは、この障壁の中心にある紋様と、さらに私たちの魔力にリアルタイムで反応して、常に変動しているようです……!」
「なるほど、動的キー生成か! 厄介なことしてくれるじゃん! モニカ、聞こえる!? セレスティの解析結果と、私たちの現在の魔力波形データを元に、変動する正規キーのパターンを予測、そしてそれを欺くための偽装術式をリアルタイムで生成できる!?」
『……試算開始。変動パラメータを複数観測。予測モデルを構築し、シミュレーションを実行します。……要求される演算量は膨大ですが、現在のリソースの95パーセントを投入すれば、誤差0.01パーセント以下の精度で偽装術式の生成が可能です』
「上等じゃん! モニカ、演算開始! セレスティは変動パターンの基礎理論の解説を続けて! 私がそれをロジックに落とし込む!」
ここからは、私たちの独壇場だった。セレスティが古代の理論を解き明かし、私がそれを現代のSEの思考で術式へと翻訳し、そしてモニカがその複雑な計算を超高速で実行する。ヴァローナとフィリップ、ゼフィラは、専門外の光景に口を挟むことなく、しかし、いざという時に備えて私たちの周囲を固めている。
モニカの超高速演算の補助を受けながら、私は論理魔導で、セレスティが解読した仕様通りに、偽の魔力パターンを構築していく。それは、まさに未知のOSに対するハッキング作業そのものだった。
数分後、ついに偽装術式が完成した。
「――いくよ! 『認証偽装』!」
私が障壁に手をかざすと、構築した偽装術式が青白い光となって流れ込み、障壁の紋様と共鳴するように輝き始めた。そして、次の瞬間、あれほど強固に見えた魔導防壁が、まるで陽炎のように揺らめき、静かに消え去っていったのだ。
「やった……! 最初の関門、突破!」
私たちは、互いの顔を見合わせ、安堵と達成感に満ちた笑みを浮かべた。しかし、このエデンの試練は、まだ始まったばかりだった。




