コミット 204:『聖域《エデン》起動!そこは古代文明の超巨大サーバー!?』
クロノスの番人が消滅したことで、私たちを直接苛んでいた禍々しい魔力の瘴気は、嵐が過ぎ去ったかのように薄れていった。森は静けさを取り戻したが、その空気には依然として微かな歪みが残り、木々の姿もねじくれたままだ。世界のバグの根源は、まだこの奥にある。それでも、最大の脅威が去ったことで、モニカが示した座標を目指す私たちの足取りは、これまでのどの時よりも確かなものとなっていた。
鬱蒼とした森を抜け、険しい岩場を乗り越え、私たちは数時間かけて、ついにその場所にたどり着いた。
「……ここが……エデン……?」 ゼフィラが、呆然と呟いた。
私たちの目の前に広がっていたのは、伝承に謳われるような、花が咲き乱れ、緑豊かな木々が生い茂る楽園ではなかった。
それは、山一つを丸ごとくり抜いたかのような、巨大な半球状の建造物だった。その表面は、継ぎ目のない滑らかな金属質の素材で覆われ、長い年月の間に蔦や苔に覆われてはいるものの、その威容は少しも損なわれていない。表面には、理解不能な幾何学模様が無数に刻まれ、それらが淡い光を放ちながら、まるで呼吸するかのようにゆっくりと明滅を繰り返している。建造物全体から、制御された強大な魔力が、静かなハミング音のように響いてきていた。
「信じられん……これほどの規模の建造物を、一体誰が……」 フィリップが、技術者としての驚愕を隠せないでいる。
「古代文明……アーキテクトの遺産……間違いありません。この魔力の質と構造……現代の技術では、到底再現不可能です……」 セレスティもまた、目の前の光景に圧倒され、言葉を失っていた。
私たちは、まるで巨大な神殿に吸い込まれるかのように、その建造物へと近づいていった。入り口らしき場所は見当たらない。しかし、私たちが建造物の壁から数メートルの距離まで近づいた、その瞬間。
ウィィィン……という、静かだが澄んだ作動音と共に、目の前の壁の一部が光の粒子となって内側へと収束し、巨大な入り口が姿を現した。まるで、私たちの来訪を予期していたかのように。
「(自動ドア……!? しかも、生体認証か魔力認証付き……!?)」 SEとしての私の常識が、再び異世界の超技術によって粉々に打ち砕かれる。
恐る恐る、私たちはその入り口の奥へと足を踏み入れた。内部は、ひんやりとした清浄な空気に満たされていた。そして、そこに広がっていたのは、私たちの想像を絶する光景だった。
どこまでも続くかのような、広大な空間。壁も、床も、そしてドーム状の高い天井さえもが、自己発光する未知の素材でできており、その表面には無数の光の線が、まるで巨大な集積回路のように張り巡らされている。その光の線の中を、純粋な魔力のエネルギーが、サラサラと音を立てるかのように流れていくのが見えた。
空間の中央には、天を突くほどの巨大な水晶の柱が何本も林立し、それらの間を光のブリッジが結んでいる。足元には、透明な床の下を、青白いエネルギーの河が滔々と流れていた。
「……すごい……」 誰かが、そう呟いた。
ここは、聖域などではない。楽園でもない。
「(ここは……機械だ……! 世界全体を管理するための、超巨大な……サーバー……!)」
私の脳裏に、前世で何度も見てきたデータセンターの光景がフラッシュバックする。しかし、その規模も技術レベルも、比較にすらならない。
エデンの内部は、荘厳な静寂に包まれていた。私たちの足音だけが、自己発光する床に反響し、どこまでも続く光の回廊に吸い込まれていく。空気中に満ちる魔力は、これまでに感じたことがないほど純粋で濃密だった。しかし、それは自然のそれとは明らかに異質で、完全に制御された、いわば人工の魔力だった。
「ニーナ君、見てみろ。この壁の回路……信じられんほどの密度だ。これだけの魔力を、これほど精密に制御するなど……現代の技術では、理論上すら不可能だぞ」
フィリップが、壁を流れる光の線に触れんばかりに顔を近づけ、興奮した声で呟く。彼の技術者としての魂が、この古代の超技術を前にして、激しく興奮しているのが伝わってきた。
聖域エデンの正体は、制御システムだったのだ。私たちは、そのシステムの最も重要な中枢部へと、今、足を踏み入れたのだった。しかし、その先に待ち受けるのは古代の叡智か、それとも、さらなる試練か。私たちの本当の戦いは、まだ始まったばかりだった。




