コミット 203:『魔力測量完了!モニカが示す、聖域《エデン》への座標!』
クロノスの番人が浄化の光の中に消え去った後、森には嘘のような静寂が戻ってきた。あれほど私たちを苛んでいた、空間を歪ませるほどの禍々しい魔力の奔流は完全に収まり、代わりに、木々の間を吹き抜ける風の音や、遠くで鳴く鳥の声といった、ごく自然な音が耳に届き始める。
「はぁ……はぁ……終わった……のか?」
フィリップが、ライフルの銃身を支えにしながら、荒い息をつく。彼の額には玉のような汗が浮かび、その表情には極度の疲労と、そして信じられないといった風な驚愕の色が混じっていた。
「ええ……どうやら、切り抜けられたみたいね」
ゼフィラは、魔導防壁を維持していた反動か、少しふらつきながらも安堵の笑みを浮かべていた。彼女の翼から放たれていた守護の光は、今はもう収まっている。
「皆さん、お見事でした。特に、ニーナ殿とセレスティ殿の最後の連携……あれがなければ、我々は今頃……」
ヴァローナは、剣を鞘に収めながら、私たち一人一人の顔を誇らしげに見回した。彼女の瞳には、仲間への絶対的な信頼が宿っている。
「い、いえ……私なんて……ニーナさんが、私の知識を信じて、形にしてくださったから……」
セレスティは、はにかみながらも、その表情はこれまでにないほど自信に満ち溢れていた。
仲間たちの称賛の言葉が、疲労困憊の身体に温かく染み渡る。だが、私はすぐに気を取り直した。今こそが、最大のチャンスなのだから。
「(番人を倒したことで、森の魔力ノイズが一時的に大幅に減少してる……! 今なら、モニカの解析が通るかもしれない!)」
「モニカ! 今すぐ、これまでに収集した全ての魔力密度データを統合して、再解析を開始! エデンの座標を特定するのよ!」
『――了解。魔力ノイズ、平常値の15パーセントまで低下。解析プロセスを起動します』
私の指示を受け、耳元のイヤリングが微かな光を放つ。次の瞬間、私の目の前の空間に、半透明の光で構成された、このクロノスの森、いや、私たちが旅してきた地域一帯の広大な三次元マップが立体的に投影された。それは、フィリップの工房で見たどの設計図よりも遥かに複雑で、そして美しい、光の芸術だった。
「こ、これは……!?」
仲間たちが、その壮大な光景に息を呑む。
立体マップの上には、私たちがこれまでに各地で観測してきた魔力密度のデータが、無数の光の粒子となってキラキラと輝いている。それらの粒子は、モニカの超高速な演算処理によって次々と線で結ばれ、解析されていく。
『過去データとの照合……完了。特異点の抽出……完了。三角測量法による座標特定アルゴリズム、実行……』
モニカの冷静な声が、解析の進捗を報告する。光のマップは目まぐるしくその姿を変え、不要なデータ領域が次々と削ぎ落とされていく。そして、無数にあった光の点は、徐々に一つのエリアへと収束していった。それは、まるで宇宙の星々の中から、たった一つの目的地を探し出すような、壮大な作業だった。
そして、ついに。
全ての光の線が、森の最深部、これまで誰も足を踏み入れたことのないであろう一点を指し示し、そこだけが太陽のように眩い輝きを放ち始めた。
『――座標特定、完了。信頼度99.87パーセント。目標地点、通称『エデン』の推定座標は、現在位置より北北東へ約15キロメートル。誤差範囲、半径50メートル以内』
その言葉は、私たちの長い旅の、一つの終着点を示していた。曖昧な伝説でしかなかったエデンが、今、明確な「目標地点」として私たちの目の前に示されたのだ。
「……やった! やったわ、みんな!」
私は、思わず叫んでいた。仲間たちの顔にも、疲労を忘れさせるほどの、興奮と期待の色が浮かんでいる。
「ついに……たどり着けるのですね、エデンに……!」
「うふふっ、いよいよお宝とのご対面、ってわけねぇ」
「……古代文明の遺産か。技術者として、胸が躍るな」
「よし、行くぞ。最後の目的地へ!」
ヴァローナの力強い言葉に、私たちは力強く頷いた。クロノスの森の試練は、私たちの絆を試し、そして完成させた。そして今、五人の心を一つにした私たちは、世界のバグの核心へと、最後の歩みを進めるのだった。
――フィーチャー6、コンプリート。




