コミット 202:『五人の絆が道を拓く!最強のパーティ、ここに爆誕!』
クロノスの番人が放つ、精神を蝕む絶望の波動。それは、私たちがせっかく乗り越えたはずの「心のバグ」を再発させ、パーティを内側から崩壊させようとする、最も悪質な攻撃だった。誰もが、再び過去の悪夢に引きずり込まれそうになり、膝が折れそうになる。
「(くそっ……! このままじゃ、全員やられる……!)」
私が歯を食いしばった、その時だった。
「……皆さん! 諦めないでください!」
凛とした、しかしどこか震える声が響いた。セレスティだった。彼女は、恐怖に耐えながらも、古代文献を収めた鞄を固く握りしめ、必死に声を張り上げていた。
「この魔物は……古代の文献にあった『残留思念集合体』に酷似しています……! 強い魔力溜まりに多くの負の感情が流れ込み、実体化した存在……! 物理的な核は持ちませんが、その代わり、その存在を維持するための『論理構造』が、極めて脆いはずです!」
その言葉は、暗闇の中に差し込んだ一筋の光明だった。
「(論理構造が脆い……バグだらけのエンティティ……だと!?)」
そうだ。こいつは、森の歪んだ魔力が無理やり形になっただけの、いわば「バグの塊」。ならば、正面から殴り合う必要はない。そのシステムの脆弱性を突き、デバッグすればいい!
「セレスティ、ナイス! みんな、聞いた!? こいつはバグの塊だ! これから、私たちがこいつをデバッグする!」
私の声に、仲間たちの瞳にわずかな光が戻る。しかし、番人の精神攻撃は依然として強力で、集中力を維持するのも困難だった。
「――私の出番、みたいねぇ」
その時、ゼフィラが一歩前に進み出た。彼女の背中の、光と闇が調和した美しい翼が、ふわりと広がる。
「みんな、私のこと、信じてくれるかしら?」
その問いかけに、私たちは迷いなく頷いた。ゼフィラの瞳には、仲間への絶対的な信頼が宿っている。
「うふふっ、嬉しいわ。――じゃあ、いくわよ! 私の愛で、みんなを守ってあげる!」
ゼフィラが両手を広げると、彼女の身体から、これまでにないほど強力で、そして温かいピンクゴールドの光のオーラが溢れ出した。それは、単に能力を向上させる「エンカレッジ」ではない。仲間を信じる心、愛する心が生み出した精神的な守護の力――「信頼の聖域」だった。
その光が私たちを包み込んだ瞬間、頭の中に響いていた不快なノイズが嘘のように消え去り、代わりに心が温かい安心感で満たされていく。番人の精神攻撃が、完全にシャットアウトされたのだ。
「すごい……! ゼフィラさん!」 「これで、憂いなく戦えるな!」
「ニーナちゃん! あとは、あなたに任せたわよ!」
「任せて!」
ゼフィラの魔導防壁に守られ、私はついに論理魔導の解析に集中することができた。目の前の空間に、番人の歪んだ魔力構造が、無数の絡み合った光の線として展開される。それは、まさにスパゲッティコードそのものだったが、今の私には、その中にあるいくつかの致命的な脆弱性――魔力の流れが不安定になっている「脆弱性ノード」が、赤いエラー表示のように見えていた。
「フィリップさん! あの番人の右肩、左膝、そして頭部の三点! そこが奴の魔力循環の弱点だ! 私がタイミングを指示するから、その三点を正確に狙撃して!」
「承知した! 最高の腕前を見せてやろう!」
フィリップはライフルを構え、その瞳に冷静な光を宿す。
「ヴァローナさん! 番人の足元を見て! 地面から、黒い魔力が供給されてる! そのラインを、あなたの剣で断ち切って!」
「心得た!」
ヴァローナは、剣を低く構え、大地を走る禍々しい魔力の光の線を睨みつける。
「セレスティは、私と一緒に、最後の浄化の術式の構築を手伝って!」
「は、はいっ!」
五人の役割は、完全に分担された。ゼフィラが精神的な守りを固め、私が戦術を組み立て、フィリップとヴァローナが物理的な攻撃を実行し、セレスティが知識でそれを補助する。まさに、完璧なパーティシステムだった。
「フィリップさん、今だ! 右肩!」
私の合図と共に、フィリップのライフルが火を噴く。放たれた風の弾丸は、番人の右肩にある脆弱性ノードを正確に撃ち抜き、その部分の魔力構造を大きく乱した。
「ギシャアアッ!」
番人が苦悶の声を上げる。その隙を逃さず、ヴァローナが大地を走る魔力のラインを、渾身の剣撃で両断する。
「はあああっ!」
魔力の供給源の一部を断たれ、番人の身体が、一瞬だけ、より濃く実体化した。
「ニーナさん、今です! 浄化のロジック、完成しました!」
「サンキュー、セレスティ!――とどめだ! このバグだらけの存在に、最高の修正パッチをくれてやる! 『聖なる再起動』!!」
私とセレスティが共同で組み上げた浄化の論理魔導。それは、エレメンタル・ガードナーから放たれる、眩いばかりの純白の光の奔流となって、実体化した番人の核へと突き刺さった。
番人の身体が、内側から浄化の光に満たされていく。黒紫色の禍々しい魔力は、美しい光の粒子へと変換され、そして、静かに霧散していった。
後に残されたのは、静寂を取り戻した森と、疲労困憊ながらも確かな達成感に満ちた表情で互いを見つめ合う、私たち五人の姿だった。クロノスの森、最後の試練。それは、私たち五人の絆の強さを証明するための、最高の舞台となったのだった。




