表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/67

コミット 2:『見た目はパリピ、中身はおっさん。このアバター、操作性最悪なんですけど!』

森の中をどれくらい彷徨っただろうか。


方向感覚など皆無な俺――いや、私か。この一人称にもそろそろ慣れないといけないんだな――は、完全に迷子になっていた。


履き慣れないヒールの高いブーツ(なんでこんなものを最初に用意するんだ)のせいで足は痛いし、露出度の高い服は心許ない。


何より、このやたらと揺れる胸が邪魔で仕方ない。


「(これが『最強の見た目』だって? ふざけんな、修正対象にしかならねえよ……!)」


悪態をつきながら、それでも歩き続けたのは、SE時代に培われた「諦めの悪さ」の賜物だろう。


陽が傾き始めた頃、ようやく木々の切れ間から、人工物らしきものが見えてきた。

粗末な木の柵と、その奥にかすかに見える家々。どうやら村のようだ。


「(助かった……のか?)」


一瞬安堵したが、すぐに別の問題が頭をもたげる。


この格好だ。こんな辺鄙な(と見える)村に、こんな派手なギャルが一人で現れたら、どうなる?

警戒されるのは必至だろう。下手すりゃ、魔女か何かと間違われて石を投げられるかもしれない。


「(いや、落ち着け、斉藤肇。お前はもう斉藤肇じゃない。超絶美少女ギャル(仮)のニーナなんだ。たぶん)」


水鏡で見た自分の名前など知る由もないが、とりあえず心の中で仮名をつけた。


ニーナ。うん、ギャルっぽい響きだ。


……自分で言ってて虚しくなってきた。


村の入り口らしき場所に近づくと、農作業帰りなのか、(くわ)を担いだ数人の村人がこちらに気づいた。


案の定、彼らの視線が一斉に私に突き刺さる。

それは好奇と、若干の警戒、そして――男たちの下世話な興味が入り混じったような、なんとも居心地の悪い視線だった。


「(うわっ、見られてる、めっちゃ見られてる……!)」


前世では、どちらかというと「見ている」側だった。


満員電車で、たまに乗り合わせてくる派手なギャルを遠巻きに眺めては、「若いっていいよなー」などとオッサンくさい感想を抱いていたものだ。

まさか自分が「見られる」側、それもこんなジロジロとした視線を浴びることになるとは。


「(ど、どうすりゃいいんだ……? とりあえず、愛想笑いか? いや、ギャルならもっとこう、フレンドリーな感じかな?)」


頭が真っ白になる。SEとしての論理的思考はどこへやら、完全にパニックだ。

だが、ここで黙っていても状況は悪化するだけだろう。


「あ、えっと……こんにちはー……?」


咄嗟に出たのは、なんとも弱々しい、裏返った声だった。

しまった、これじゃ完全に不審者だ。

しかし、意外なことに、村人たちの反応は険悪なものではなかった。


むしろ、一瞬キョトンとした後、中年の男が一人、顔を赤らめながら近づいてきた。


「お、お嬢さん、どこから来たんだい? こんな山奥で一人とは、珍しいな」


「(お嬢さん……? ま、まあ、そう見えるわな、このなりなら)」


内心でツッコミを入れつつ、私は必死で言葉を絞り出す。


「そ、それが……道に迷っちゃって……気づいたら、ここに……」


しどろもどろの返答。だが、男は「そうかそうか、それは大変だったろう」とやけに親切だ。

他の村人たちも、遠巻きながら心配そうな表情を浮かべている。


「(あれ……? なんか、やけに協力的じゃないか?)」


不審に思いつつも、彼らの厚意に甘える形で、私は村の中へと案内されることになった。

道すがら、村人たちの視線は相変わらず私に集中している。特に若い男たちの熱っぽい視線は、正直かなりキツい。


「(これが……『他人の評価』ってやつか……。前世じゃ、バグ報告書の評価くらいしか気にしてなかったけど、これはまた別種のプレッシャーだな……!)」


無意識のうちに、私は背筋を伸ばし、少しだけ顎を上げ、前世でテレビや雑誌で見た「ギャルっぽい」仕草をしていた。

髪をかき上げたり、軽く首を傾げたり。

中身がおっさんであることなど微塵も感じさせない、完璧な(と自分では思っている)ギャルの演技。


「(うわっ、俺何やってんだ……キッツ……! なんでこんな自然にギャルを演じてしまってるんだよ!?)」


内心では自己嫌悪の嵐が吹き荒れる。

だが、そうでもしないと、この視線の集中砲火に耐えられそうになかった。

周囲の期待(に勝手に感じているもの)に応えようとする、社畜時代に染み付いた哀しい性なのかもしれない。


先ほどの男が再び私に話しかけてきた。


「お嬢さん、名前はなんて言うんだい?」


村長のゴードンと名乗った恰幅のいい初老の男は、やけに優しい笑顔を向けてくる。

他の村人たちも、どこかニーナ(という存在)を歓迎しているような雰囲気すらあった。


「え? あ……ニ、ニーナ……です」


「ニーナちゃんか。いい名前だ。わしはここの村長のゴードンだ。まあ、ゆっくりして行くといい」


「(……なんだろう、この村。やけにギャルに甘くないか? それとも、単に私が美少女だからか? ……いやいや、自惚れるな、斉藤肇。何か裏があるに決まってる)」


私は差し出された木のコップに入った水を飲みながら、村人たちの過剰なまでの親切さに、一抹の不安を覚えていた。

この世界は、まだ私にとってバグだらけの未知のシステムなのだから。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


「面白かった!」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひブックマーク登録と、【★★★★★】評価で応援よろしくお願いします!


あなたの応援が、次のコミットに繋がります!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ