コミット 198:『伝統と革新の融合!フィリップ、父の影を超える創造!』
父の幻影が突きつけた、痛烈な問い。それは、フィリップが心の奥底で抱えていた、最大の不安そのものだった。自分の創造性は、ニーナという巨大な才能の前に飲み込まれてしまったのではないか。自分は、ただの便利な道具屋に成り下がってしまったのではないか。
「(そうだ……私は、ただ、ニーナ君の言う通りに手を動かしていただけなのかもしれない……)」
絶望が、冷たい霧のように心を覆い尽くしていく。ライフルを持つ腕が、だらりと下がりそうになった、その時。
『フィリップ殿! 肉を食え! 話はそれからだ!』
不意に、脳裏にヴァローナの力強い声が響いた。生活習慣が破綻していた自分に、半ば強引に、しかし心の底から心配して手料理を振る舞ってくれた、あの不器用な優しさ。
『フィリップ様……! あなたのその技術は、まるで古代の叡智が現代に蘇ったかのようですわ!』
セレスティの、純粋な尊敬に満ちたキラキラとした瞳。彼女は、フィリップの技術の本質を、誰よりも深く理解しようとしてくれていた。
『あらあら、フィリップちゃん、センスないのねぇ。もっとこう、流れるようなフォルムで、宝石みたいな輝きがなくっちゃ!』
ゼフィラの、気まぐれで無茶苦茶なデザイン案。しかし、その感性は、機能一辺倒だったフィリップの作品に、新たな「美」という価値を与えてくれた。
そして――。
『フィリップさんの技術は、本物です! マジで最高です! これがあれば、私の論理魔導、もっともっと進化できます!』
ニーナの、一点の曇りもない、屈託のない笑顔。彼女は、フィリップの技術を「部品」などとは決して思っていなかった。共に未来を創るための、かけがえのない「パートナー」として、心から信頼してくれていた。
「(……そうか。俺は……一人では、なかったんだな)」
仲間たちの顔が、次々と脳裏に浮かぶ。彼らと共に過ごした、騒がしくも温かい日々。それは、孤独な研究に埋没していた頃には決して得ることのできなかった、かけがえのない宝物だった。
フィリップは、ゆっくりと顔を上げた。その瞳には、もはや迷いの色はなかった。代わりに、静かだが決して揺らぐことのない、鋼のような決意の光が宿っていた。
「――父上の技術は、素晴らしい。俺は、今でも心から尊敬している。だが、時代は変わる。そして、俺も変わらなければならない」
フィリップは、父の幻影を真っ直ぐに見据え、力強く宣言した。
「俺は、ニーナ君の『部品』になったつもりはない! 俺たちは、互いの才能を認め合い、そして融合させることで、誰も見たことのない、新しいものを創り出しているんだ! 伝統を受け継ぎ、そして革新と融合させる! それこそが、俺がこの手で掴み取った、俺自身の『創造』だ!」
その言葉に呼応するように、フィリップの周囲に無数の青白い光の線が走り始めた。それは、彼がニーナと共に設計し、そして自らの手で創り上げてきた、魔導演算ユニットやスナイパーライフルの、複雑で美しい設計図だった。伝統的な魔石加工技術によって生み出された精密な物理回路と、ニーナのロジカルマジックがもたらした革新的な魔力フロー。その二つが、まるで美しい二重螺旋を描くように絡み合い、調和し、これまでにない輝きを放っている。
「これが、俺たちの答えだ。父上の技術を超え、そして、新しい時代の扉を開く、俺たちの魔法だ!」
父の幻影は、目の前に広がる荘厳な光景と、息子の揺るぎない言葉に、驚愕の表情を浮かべていた。そして、その表情は、やがて厳しさの中から、ほんの僅かな安堵と、そして誇りのような色が滲む、穏やかなものへと変わっていった。
『……フッ。少しは、職人らしい顔つきになったではないか』
父の幻影はそう呟くと、満足げに頷き、他の職人たちの幻影と共に、光の中へと静かに消えていった。
幻影が消え去った後には、再びクロノスの森の静寂が戻ってきた。フィリップは、自分の手の中に握られたライフルの確かな重みを感じていた。それは、もはや父の影を追いかけるための道具ではない。仲間と共に未来を切り開くための、信頼の証だった。
過去の呪縛から完全に解き放たれ、真の創造主としての一歩を踏み出したフィリップ。彼は、力強い足取りで、仲間たちを探すため、霧の奥へと歩き始めた。




