コミット 195:『セレスティの試練!「知識の監獄」からの脱出!?』
濃霧に分断され、一人森を彷徨うセレスティの耳に、懐かしい故郷の鐘の音が響いた。ハッと顔を上げると、目の前の霧が晴れ、そこに広がっていたのは、鬱蒼としたクロノスの森ではなく、彼女が生まれ育った小さな村の、見慣れた風景だった。
「(ここ……は……? 私の、村……?)」
しかし、その光景は平和なものではなかった。家々の扉は固く閉ざされ、村全体が重苦しい沈黙に包まれている。そして、村人たちの顔には、深い絶望と苦痛の色が浮かんでいた。彼らの肌には不気味な紫色の斑点が浮かび上がり、弱々しく咳き込んでいる者もいる。
「あ……あぁ……!」
セレスティは息を呑んだ。これは、かつて村を襲った、あの忌まわしい魔法の疫病。彼女がその治療法を知りながらも、誰にも信じてもらえず、多くの命が失われるのをただ見ていることしかできなかった、悪夢の記憶そのものだった。
「セレスティじゃないか! お前、まだ生きていたのか!」
村人の一人が、憎悪に満ちた目でセレスティを指さした。その声に呼応するように、次々と村人たちが彼女を取り囲む。
「お前のせいだ! お前が、あの時、もっとちゃんと説明してくれていれば……!」 「役立たずの物知りめ! お前のその知識など、何の役にも立たなかったじゃないか!」 「人殺し!」
幻影だと分かっている。これは森が見せる悪夢なのだと。しかし、村人たちの罵声は、鋭い刃のようにセレスティの心を抉った。かつて、本当に向けられた言葉。彼女の心を「知識の監獄」へと閉じ込めた、呪いの言葉。
「(ちが……違う……私は、助けたかった……でも、誰も、私の言葉を……聞いてくれなかった……!)」
声が出ない。喉が締め付けられるように痛く、言葉が音にならない。手足が震え、全身から力が抜けていく。過去のトラウマが、彼女の思考を、そして身体を完全にフリーズさせていた。
『知識は実装してこそ意味がある』
不意に、ニーナの明るい声が頭の中に響いた。王都の研究室で、自分の知識の価値を信じられずにいた彼女を、力強く励ましてくれた言葉。
「(実装……してこそ……意味が……ある……?)」
そうだ。あの時、私は自分の知識を、ただ頭の中に溜め込んでいるだけだった。それを、どうすれば人に伝わるのか、どうすれば世界に役立てられるのか、その「実装」の方法を知らなかった。そして、それを試す勇気もなかった。
「お前のせいで、母さんは……!」
一人の少女の幻影が、涙ながらにセレスティに石を投げつける。その光景は、セレスティの心を打ち砕くには十分すぎるほどの威力を持っていた。
「(もう……ダメ……私には……やっぱり、何もできない……)」
絶望が、再び彼女を飲み込もうとしていた。村人たちの幻影が、じりじりと距離を詰めてくる。その瞳には、もはや何の光も宿っておらず、ただ深い怨嗟の色だけが揺らめいていた。




