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『ギャルエルフ』になった社畜SEの俺、転生先が『バグだらけの世界』だったので『デバッグ』することになりました! 〜ギャルSEの異世界デバッグ!〜  作者: AKINA
フィーチャー6:『クロノスの森、バグの巣窟!~時空を超える試練、五人の絆がバグを断つ!?~』
192/216

コミット 192:『見えざる脅威!森が仕掛けるデバッグ不能の罠!?』

強烈な空間の歪みは、巨大な波のように私たちを飲み込んだ。一瞬、天地が逆転し、視界が真っ白に染まる。内臓が掻き回されるような不快感に耐えながら、私たちは必死で互いの手を握りしめ、離れ離れになることだけは避けようと踏ん張った。


数秒か、あるいは数分か。時間の感覚すら曖昧になった後、ようやくその歪みは収まった。私たちは、森の中の、先程とは明らかに違う場所に立っていた。周囲の木々の形状も、地面の様子も、先程までとは異なっている。


「……みんな、無事!?」


私が荒い息をつきながら叫ぶと、仲間たちから苦しげではあるが確かな返事が返ってきた。幸い、誰も怪我はないようだ。しかし、全員の顔には疲労と、そして未知の脅威に対する緊張の色が濃く浮かんでいた。


「くっ……今のは、一体……。何かの罠か……? 無理やり移動させられたぞ!」


ヴァローナが、周囲を警戒しながら悪態をつく。


「それだけじゃないわ。なんだか、頭の中に直接、嫌な声が響いてくるような……」


ゼフィラが、こめかみを押さえながら顔をしかめる。彼女の言葉通り、私の頭の中にも不快なノイズのようなものが響き始めていた。それは、特定の言葉ではない。しかし、聞いているだけで不安や焦りを掻き立てられるような、精神的な不協和音だった。


「(精神攻撃まで仕掛けてくるってワケ……? しかも、広範囲かつ持続的……厄介すぎるでしょ、このエリアの仕様……!)」


森の奥へ進むにつれて、その精神的な干渉はさらに悪化の一途を辿った。時折、仲間の一人の姿が、一瞬だけ全く別人のように見える幻覚。あるいは、どこか遠くで誰かが助けを求めて叫んでいるかのような幻聴。森は、私たちの五感と精神を、じわじわと蝕み始めていた。


『精神干渉を伴う魔力波を検知。魔導防壁の展開を推奨します』


モニカからの警告を受け、私は即座に論理魔導ロジカルマジックで簡易的な精神防壁を展開し、仲間たちにも同様の指示を出す。しかし、森の干渉はあまりに強力で、私たちの付け焼き刃の防御など気休めにしかならなかった。


そして、ついに森は、最も古典的で、かつ最も効果的な罠を私たちに仕掛けてきた。


「――霧……!?」


どこからともなく乳白色の濃い霧が湧き出し、瞬く間に私たちの周囲を覆い尽くしていったのだ。ほんの数秒前まで見えていた仲間たちの姿が、霧の中に霞んでいく。視界は、もはや自分の手元すらおぼつかないほど完全に奪われてしまった。


「みんな、声を出し続けて! 絶対に離れないで!」


私が叫ぶが、自分の声すらも霧に吸い込まれていくようにくぐもって聞こえる。仲間たちの返事も、遠く、そして途切れ途切れになっていく。


「ニーナさん! どこですか!?」


「ニーナ! 手を離すな!」


セレスティとヴァローナの切羽詰まった声が聞こえたのを最後に、私は完全に一人になってしまったことを悟った。魔力的な繋がりで仲間たちの位置を探ろうとしても、森全体を覆う強烈な魔力ノイズがそれを阻む。まるで、全ての通信が遮断された、孤立無援のサーバーに取り残されたかのようだった。


「(くそっ、最悪のパターンじゃん……! 分断されて、各個撃破されるとか、完全に定石通りの負けフラグ……!)」


焦りが、心臓を鷲掴みにする。私がしっかりしなければ。このパーティの司令塔として、みんなを導くための道筋を見つけなければ。そう思うほどに、思考は空回りしていく。


そんな私の耳に、不意に、聞き覚えのある声が響いた。


『――おい、斉藤! この程度のバグも修正できないのか! それでもSEか!』


「――ッ!?」


それは、前世で私を精神的に追い詰めた、あのパワハラ上司の声だった。幻聴だ。分かっている。しかし、その声はあまりにもリアルで、当時の絶望的な感情が、まるで昨日のことのように蘇ってくる。


『斉藤君のせいで、プロジェクトは大赤字だよ。どう責任取るつもりなんだい?』


『あいつ、またミスったらしいぜ』


『使えない奴』


同僚たちの冷ややかな声、嘲笑う声が、霧の中から次々と聞こえてくる。それは、私が心の奥底に封じ込めていた、最も触れられたくないトラウマだった。


「(やめろ……やめてくれ……!)」


耳を塞いでも、その声は頭の中に直接響いてくる。私はその場にうずくまり、必死でその声に抵抗しようとした。


『ニーナの心拍数、魔力波の乱れを記録。過去の精神的外傷トラウマに起因する脆弱性と判断。同様の精神攻撃パターンに対する防御プロトコルを構築します。優先度は最大に設定』


耳元で響く、モニカの無機質な声。そして、頭に響く声が小さくなっていく。モニカは感情を理解できない。ただ、観測されたデータに基づき、論理的な最適解を導き出しただけだ。


しかし、その無機質で、どこまでも私を守ろうとしてくれる応答が、今の私の心には何よりも温かく響いた。


「……あんたは、本当に最高の相棒だよ」


私は、溢れる涙を乱暴に拭い、そう呟いた。モニカは、何も答えなかった。


そして、私は気づいてしまった。この森が、何をしようとしているのかを。


「(まさか……この森、私たちの記憶を……精神をスキャンして、それぞれの『心のバグ』を直接攻撃してきてるってこと……!?)」


だとしたら、他の仲間たちも、今頃、それぞれの最も辛い過去と、一人で向き合わされているのかもしれない。ヴァローナは? セレスティは? ゼフィラは? フィリップは?


仲間たちの顔が脳裏に浮かび、焦燥感が全身を駆け巡る。私が、何とかしなければ。


そう思った瞬間、ふと、霧の向こうに揺らめく赤い光が見えたような気がした。それは、何か巨大なものが燃え盛っているかのような、不吉な光。そして、その光景は、私が最も見てはいけない、ヴァローナの心の深淵に刻まれた絶望の光景――「失われた砦」の炎と、あまりにも酷似していた。

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