コミット 183:『フィリップの過去と「名工の影」!?ニーナ、技術者の孤独に共感する!』
エデンへの旅の途中、私たちは、ある古い廃墟の村で、束の間の休息を取っていた。その夜、焚き火を囲みながら、私は、ふと、フィリップに彼の過去について尋ねてみた。彼は、ジオフォートで出会った頃に比べれば、随分と心を開いてくれるようになったが、それでもまだ、彼の心の奥底には、何か深い影のようなものが残っているように感じられたからだ。
「フィリップさんって、どうしてあんなに、伝統的な技術にこだわってたんですか?何か、昔、あったんですか?」
私のそのストレートな質問に、フィリップは、一瞬、驚いたような顔をしたが、やがて、重々しい口調で、ぽつりぽつりと語り始めた。
彼の父親は、かつて王国でも五指に入ると言われた、伝説的な魔道具職人だったという。フィリップは、幼い頃から、その偉大な父親の背中を見て育ち、そして、いつしか、父親を超える職人になることを、自らの目標としていた。
若い頃のフィリップは、才能に溢れ、そして野心に満ちていた。彼は、伝統的な技法を基礎としながらも、そこに独自の斬新なアイデアを取り入れ、次々と新しい魔道具を開発し、周囲を驚かせていた。しかし、そのあまりにも型破りな発想と、そして彼の不器用で、どこか傲慢にも見える態度は、伝統を重んじる古い世代の職人たちから、強い反感を買うことになる。
「……当時の私は、若く、そして未熟だった。自分の才能を過信し、周囲の意見に耳を貸そうともしなかった。結果、私は、ギルドの中で孤立し、そして、ついには、異端者として追放されることになったのだ……」
フィリップの声には、深い後悔と、そして癒えない傷の痛みが滲んでいた。彼は、自分の才能が、誰にも理解されず、そして、尊敬する父親の名を汚してしまったのではないかという、重圧に苦しみ続けていたのだ。それが、彼を頑なにし、新しいものへの挑戦を恐れさせ、そして、「伝統」という名の殻に閉じこもらせてしまった原因だった。
「(そっか……フィリップさんも、色々あったんだな……。俺も、前世じゃ、自分の技術を信じてもらえなくて、バグの責任を押し付けられて、会社にいられなくなった。あの時の孤独感と絶望感は、今でも忘れられない……。フィリップさんの気持ち、痛いほど分かるぜ……)」
私は、フィリップのその話を聞きながら、自分の過去のトラウマと、彼の経験を重ね合わせていた。技術者としてのプライド、周囲からの無理解、そして、孤立無援の状態で、それでも何かを創り出そうともがく苦しみ……。それは、私たちが、全く異なる世界で生きてきたにも関わらず、共有できる、普遍的な感情なのかもしれない。
「フィリップさん……私もね、昔、似たような経験をしたことがあるんです。だから、フィリップさんのその気持ち、すごくよく分かります。でも、フィリップさんの技術は、本物です。そして、その技術は、これから、たくさんの人たちを笑顔にできるはずです。私は、そう信じています」
私のその言葉に、フィリップは、驚いたように顔を上げた。そして、彼の瞳の奥に、これまで見せたことのないような、穏やかで、そして温かい光が灯るのを、私は確かに見た。
この夜の語らいは、私とフィリップの間に、また一つ、新たな絆を結びつけるものとなった。それは、単なる仲間というだけでなく、同じ「創造者」としての苦しみと喜びを分かち合える、魂の繋がりとでも言うべきものだったのかもしれない。




