コミット 180:『ヴァローナの戦闘補助演算器!?過去の戦いを、未来の勝利へ!』
セレスティ専用の「古代文献記録装置」が完成し、その驚異的な性能が実証されたことで、フィリップ工房の魔導演算ユニット開発プロジェクトは、ますます勢いを増していた。次に私が提案したのは、ヴァローナの戦闘訓練を支援するための「戦闘補助演算器」だった。
ヴァローナは元騎士団長として豊富な実戦経験と卓越した剣技を持つ。しかし、その一方で、過去の大きな失敗からくる経験則への強いこだわりがあり、新しい戦術や客観的データに基づく対応に、やや柔軟性を欠く場面が見受けられた。
「フィリップさん、今度はヴァローナさんのために、こんなの作れませんかね?魔導演算ユニットを使って、過去の戦闘記録、例えば魔物の行動パターンなどを数値で記録し、それを元に次の戦いでその魔物の行動パターンを簡単に予測してくれるような装置です!その計算のための論理構造は私が考えます!そうすれば、経験だけに頼らず、もっと効率的に戦術を組み立てられると思うんです!」
私の提案に、フィリップは腕を組みながら考え込んだ。
「過去の戦闘記録を数値化し、それを元に未来の行動を予測する……か。それはつまり、経験則をより客観的なデータに基づいて検証し、洗練させるための補助装置ということか……?ニーナ君がその計算の仕組みを考えるというのなら、それを魔道具として形にすることは私の仕事だな。確かに、このユニットの計算能力なら、ある程度の単純な予測計算は可能かもしれんが……」
「(俺はまさに、前世の統計分析と簡易的なAIによる意思決定支援システムを、この世界の魔法で再現しようとしているわけか!フィリップさんなら、きっとこの世界の魔法で形にしてくれるはずだ!)」
私は期待に胸を膨らませながら、フィリップにその計算の仕組みを説明していく。それは、ヴァローナが戦闘後に、その時の魔物の動きや魔力流パターンなどをユニットに記録すると、ユニットがそれらの情報を私が設計した論理に従って数値化して蓄積し、似たような状況に再び遭遇した際に、過去のデータに基づいて、いくつかの行動予測と、それぞれの確率を表示するというものだった。
フィリップは私のその構想に、最初は戸惑いを見せていたものの、次第にその実用的な価値に気づき、目を輝かせ始めた。
「……面白い。実に面白い仕組みだ、ニーナ君。もしそれが実現できれば、騎士たちの訓練や戦術立案は、より論理的で効率的なものになるだろう。そして、ヴァローナ殿のその卓越した剣技も、さらに磨きがかかるに違いない。よし、挑戦してみよう。まずは、戦闘状況を定量的に記録するための指標作りと、そのデータを処理するための計算回路の設計からだな。ニーナ君、その計算の論理、詳細を教えてくれ」
フィリップと私は、再び未知なる領域への挑戦を開始した。ヴァローナもまた、自分のためにこれほど画期的な訓練補助装置が開発されようとしていることに、最初は半信半疑だったものの、次第にその可能性に期待を寄せるようになっていた。
そして、数週間に及ぶ困難を極めた開発作業の末、ついに「戦闘補助演算器」のプロトタイプが完成した。それは、ヴァローナの剣の鞘に取り付けられる小型の魔石ユニットと、それを操作するための小さな表示盤から構成されていた。
ヴァローナが模擬戦の後にその時の状況をユニットに記録し、次の戦いで同様の魔物が現れたと仮定して操作すると、表示盤には、いくつかの基本的な予測行動パターンと、それぞれの行動パターンが過去の戦績に基づいたごく単純な確率が、光の描画で示された。
「(これは……!確かに、自分の経験だけに頼るのではなく、客観的なデータに基づいて戦術を考える、良いきっかけになるかもしれん……!)」
ヴァローナは、その新しい装置の可能性に静かな興奮を覚えていた。
この「戦闘補助演算器」の完成は、ヴァローナが自身の戦い方を見つめ直し、より柔軟な思考を身につけるための大きな助けとなるだろう。そしてそれは、魔導演算ユニットが、知識の探求だけでなく、実践的な技能訓練の分野においても、大きな可能性を秘めていることを示す、画期的な出来事でもあった。




