コミット 17:『おっさんSE、ギャル語の壁に大苦戦!?村人とのコミュニケーションデバッグ大作戦!』
村での生活にも少しずつ慣れてきたニーナだったが、最大の難関は依然として「言葉の壁」――いや、正しくは「ギャル語の壁」だった。中身は三十八歳のシステムエンジニア斉藤肇。しかし、外見は超絶美少女ギャル。このギャップを埋めるため、ニーナは日々、涙ぐましい(そして滑稽な)努力を続けていた。
「あー、そこの畑の件なんだけどさー、昨日セットした新しい水汲みデバイス、ちゃんと動いてる?」
村の青年と畑仕事の進捗について話していたニーナは、うっかり口にした言葉に内心で頭を抱えた。「(しまった!『セット』とか『デバイス』とか、つい専門用語が……!どうごまかそうコレ!?)」
青年はきょとんとした顔で首を傾げている。
「せっと……でばいす……? なんだか難しい言葉だね、ニーナちゃんは」
「あ、えっと、そ、それはつまり~、昨日設置した新しい水汲み魔法、イイ感じに動いてるかってこと!みたいな?」
額に脂汗を滲ませながら、必死にギャル語のフィルターを通す。
「おお、そうか!助かるよ、ニーナちゃんの魔法は本当にすごいな!」
青年は屈託なく笑った。
「(セーフ……!いや、全然セーフじゃない!俺の精神的な疲れ、半端ないんですけど!)」
ニーナは内心でぐったりと項垂れた。元々コミュ力は低い方だったが、それに輪をかけて異世界ギャルという枷。まさに二重苦だ。
「ニーナちゃん、ちょっといい?」
声をかけてきたのは、村の若い娘の一人、ハナだった。彼女は村一番のおしゃべりで、流行にも敏感(この村基準で)。ニーナのぎこちないギャル語を微笑ましく見守りつつも、時折的確な(?)アドバイスをくれる貴重な存在だった。
「ニーナちゃんの言葉遣い、面白いけど、もう少しこう……『ノリ』がいい感じがいいかも?例えば、『イイ感じ』もいいけど、『マジヤバ!』とか『神!』とかの方が、もっとこう……テンション上がる?」
ハナは目を輝かせながら、最新(この村基準で)のギャル語をレクチャーしてくれる。
「(マジヤバ……神……テンション上がる……無理!俺の語彙力じゃついていけない!)」ニーナは内心で白目を剥いた。前世で触れたギャル文化は、あくまで画面の向こう側のもの。それを実践するなど、想像すらしたことがなかったのだ。
「あとね、ニーナちゃん、話す時にこう、もっと手を動かしたり、首を傾げたりすると、もっと『かわちい』ってなるよ!」
ハナは自ら実践してみせる。
「(うわっ、その動き、俺がやったら完全に事故物件だろ……!)」
ニーナは引きつった笑顔を浮かべるしかなかった。周囲の期待(に見えるもの)に応えようとすればするほど、本来の自分との乖離が激しくなり、自己評価がダダ下がりしていくのを感じる。
「ま、まぁ、私なりに頑張ってみる……かな?」
「うん!ニーナちゃんなら絶対イケるって!」
ハナの悪気のない応援が、今のニーナには一番堪えるのだった。結局のところ、コミュニケーションとは相手に伝えること。その本質を忘れ、体裁ばかり取り繕おうとするから苦しいのだ。
「(……問題解決の対象は、俺自身のコミュニケーション方法か。こりゃ、相当根深い問題だぞ)」
夕焼け空を見上げながら、ニーナは深いため息をついた。異世界での日々は、まさに自分自身のバグとの戦いでもあった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「面白かった!」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひブックマーク登録と、【★★★★★】評価で応援よろしくお願いします!
あなたの応援が、次のコミットに繋がります!




