コミット 16: 『世界のバグの兆候、再び!?村の家畜が謎の衰弱!?』
「ンモォォ……」
弱々しい牛の声が、朝靄のかかった牧草地に響いた。ニーナが村長のゴードンさんに連れられてやってきたのは、村の数少ない家畜たちが飼われている小さな小屋だった。ここ数日、原因不明の体調不良を訴える家畜が数頭出ているのだという。
「どうも食欲がなくて……乳の出も悪くなっててしまったんじゃ」
ゴードンさんは痩せた牛の背を撫でながら、心配そうに太い眉を寄せた。見たところ、牛に外傷はなく、飼料もいつもと変わらないらしい。
「(ふむ、症状からすると何か良くないものを口にしたか、あるいは……でも、この世界の病気なんて俺の知識じゃ専門外だな)」
ニーナは内心で呟きつつ、小屋の周辺に意識を集中した。ダークエルフの鋭敏な感覚が、微細な魔力の流れを捉える。そして、すぐに眉をひそめた。
「(……なんだ、この魔力の淀みは?)」
小屋の周辺一帯の魔力が、まるで澱んだ水のように重く、不自然に揺らいでいるのが感じ取れた。それは黒ずんだ靄のような光の粒子として、ニーナの目には視覚化されていた。特に家畜たちが水を飲む桶のあたりが酷い。
「ゴードンさん、この水桶、最近何か変わったことは?」
「いや、特には……いつも通り、近くの川から汲んできとるだけだが」
「(川か……上流で何かあった可能性も?いや、この淀みはもっと局所的だ)」
ニーナはしゃがみ込み、そっと桶の水に指を浸してみる。ひんやりとした感触と共に、肌を刺すような微弱な不快感が伝わってきた。
「(間違いない。これは魔力的な何かが汚染してる。それも、かなり性質の悪い……まるでこの辺り一体に影響を及ぼすような、もっと大きな問題の一端って感じだ)」
前世で経験した大規模なシステムトラブルの予兆に似た胸騒ぎが、ニーナの背筋をぞくりとさせた。この世界の根幹に関わる何かが、静かに、しかし確実に狂い始めている。そんな漠然とした不安が、確信へと変わりつつあった。
「この魔力の乱れ……やっぱりこの世界、どこかおかしい」
ニーナは小さな声で呟いた。
「何か言ったかな、ニーナちゃん?」
「ううん、なんでもない。ちょっと、この水を調べてみるよ」
そう言って、ニーナは桶に両手をかざした。脳内で、汚染された魔力の流れを正常化するための仕組みを組み立てる。
「(汚染源と思しき魔力の塊を分離し、周囲の魔力循環を再構築……よし、実行!)」
ニーナの手のひらから、清浄な青白い光の線が流れ出し、桶の水を包み込む。黒ずんだ靄のような光が、青い光に触れると少しずつ霧散していくのが見えた。しかし、完全には消えない。まるでしつこい不要なデータのように、僅かな残滓が水の底にこびりついている。
「(くそっ、思ったより根が深いな……これ、根本的な原因を解決しないとダメなやつだ)」
論理魔導による魔力流調整を行っても、根本的な解決には至らない。この世界の異変は、まだ始まったばかりなのかもしれない。
ゴードンさんは、桶の水が心なしか澄んできたのを見て、驚いたように目を見開いた。
「おお..…. ニーナちゃん、あんた一体..….」
「気休め程度だけどね。しばらくは、ここの水は飲ませない方がいいかも」
その時、ゴードンさんがぽつりと言った。
「そういえば...… 昔、わしがまだ若かった頃、隣の大きな街で酷い流行り病があってな。その時、街の大きな教会の神父様が熱心に祈りを捧げたら、不思議と病が鎮まったという話を聞いたことがあるわい...…」
「(教会..…. 祈りか..…. 。単なる迷信として切り捨てていいのかな?この世界の『仕組み』は、俺の常識が通用しないルールで満ちているのかもしれない。あの水の汚染も、もっと根本的な原因を探る必要があるな。)」
ニーナはその言葉を胸に刻み、次なる問題解決の対象に思考を巡らせるのだった。この世界の異変は、自分の想像以上に複雑で厄介なものなのかもしれないが、SE魂がそれを放置することを許さない。
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