コミット 158:『ギャル流UI/UX改善提案!「もっとこう、シュッとしててキラキラな感じ!」……伝わる、これ?』
フィリップが作り上げた「記憶デバイス」プロトタイプ初号機。その機能は確かに革新的だったが、いかんせん、その巨大さと扱いにくさは、実用レベルとは程遠いものだった。
「(このままじゃ、自律型魔道具どころか、ただの持ち運び不可能な文鎮だぞ……!何とかして、もっと小型で、そしてスタイリッシュなデザインにしないと!)」
俺は、フィリップに対して、記憶デバイスの小型化と、そしてユーザーインターフェース(UI)及びユーザーエクスペリエンス(UX)の改善を、熱く提案することにした。
「フィリップさん!この記憶デバイス、機能はマジでいいんですけど、ちょっと、見た目がゴツすぎませんかね?もっとこう、シュッとしてて、キラキラしてて、持ってるだけでテンション上がるみたいな感じにしないと、女の子ウケ絶対悪いですよ!」
私が、いつものギャル口調でまくし立てると、フィリップは、眉間に深い皺を寄せ、怪訝な顔で私を見つめた。
「……しゅっとする?きらきら?てんしょんがあがる……?それは、一体、どのような魔道具の設計理論に基づいた指標なのだ?私が知る限り、魔道具の性能は、その構造の堅牢さや、魔力伝導率の高さ、そして、魔石の品質によって決定されるものだが……」
「(だーっ!また始まったよ、この人の真面目すぎる学術的考察!俺のギャル語、マジで通じねえな!)」
私は、頭を抱えながらも、何とかして自分の伝えたい「本質」を、フィリップに理解させようと試みた。
「いや、だから、フィリップさん!魔道具って、ただ性能が良ければいいってもんじゃないんですよ!使う人が、使ってて楽しいとか、便利だとか、あるいは、持っててカッコイイとか、そういう『フィーリング』も、超重要なんです!例えばですね……!」
私は、自分のイヤリング型デバイス「エレメンタル・ガードナー」に魔力を込め、その場でガントレット形態へと変形させてみせた。シュン、という小気味よい音と共に、イヤリングが光を放ち、私の両腕に、美しい流線型のガントレットが瞬時に形成される。
「見てくださいよ、これ!ただの魔力増幅器じゃなくて、こうやってカッコよく変形するから、戦闘の時もテンション上がるんですよね!こういう、こう……術者のモチベーションを高めるようなデザインとか、操作性とかが、これからの魔道具には必要だと思うんですよ!」
さらに私は、記憶デバイスの小型化について、具体的なアイデアを、比喩や例えを多用しながら説明した。
「今の記憶デバイスって、例えるなら、一昔前のデスクトップパソコンみたいな感じなんですよ。高性能だけど、デカくて重くて、持ち運べない。でも、私たちが目指してるのは、もっとこう……スマホみたいな、手のひらサイズで、いつでもどこでも使えるような、超クールなデバイスなんです!そのためには、魔石の配置をもっと工夫したり、魔導回路の集積度を極限まで高めたり、あるいは、全く新しい素材を使ったりする必要があるかもしれません!」
私のその熱のこもった説明と、具体的なイメージの提示は、意外にも、フィリップの心に響いたようだった。彼は、最初は戸惑っていたものの、次第に真剣な表情で私の話に耳を傾け、そして、何かに閃いたように、目を輝かせ始めた。
「……なるほど。つまり、お前の言う『しゅっとしてて、きらきら』とは、魔道具の機能美と携帯性を極限まで追求した、洗練されたデザインを指し、『てんしょんがあがる』とは、術者の精神高揚効果を意図した、高度な心理的設計論に基づいている、と。……面白い。実に、面白い発想だ」
「(え、それで伝わったの!?マジかよ、フィリップさん!あんた、実は天才的な翻訳機能でも搭載してんのか!?)」
俺は、フィリップのその意外な理解力に驚きながらも、確かな手応えを感じていた。この偏屈な天才職人は、私のギャル語という名の「暗号」を解読し、その奥にある「本質」を、見事に掴み取ってくれたのだ。
この日を境に、フィリップは、記憶デバイスの小型化と、そしてより洗練されたデザインの実現に向けて、新たな情熱を燃やし始める。それは、二人の奇妙な共同開発が、次のステージへと進んだことを意味していた。




