コミット 152:『「新しい技術など邪道!」フィリップの頑固な職人魂、クリティカルな互換性エラー!?』
フィリップ・アウロス。その男は、噂に違わぬ偏屈さと、そして近寄りがたいオーラを放っていた。しかし、私には、彼が開発しているという「記憶デバイス」が、どうしても必要だった。
「フィリップさん、突然押しかけて申し訳ありません。でも、私たち、あなたのその素晴らしい魔石加工技術に、どうしてもお力をお借りしたいことがあるんです」
私は、できるだけ丁寧に、そして熱意を込めて語りかけた。しかし、フィリップの表情は変わらない。彼は、腕を組み、猜疑心に満ちた目で私たちを見下ろしている。
「……ほう、私の技術に、だと?お前たちのような若輩者に、私の技術の何が分かるというのだ。私は、伝統的な技法を重んじ、真の魔道具とは何かを追求している。お前たちの考えるような、奇抜で、目新しいだけの玩具を作るつもりはないぞ」
フィリップの言葉は、彼の職人としての矜持と、そして新しいものに対する強い拒絶感を示していた。彼の工房に並べられた魔道具の数々も、確かに精巧で、美しい。しかし、そのどれもが、古い伝統的な様式美に則っており、どこか発展性のない、硬直した魔力の光を放っているように、私には見えた。
「(うーん、これは思った以上に手強いな……。完全に『伝統こそ至高、新しい技術など邪道!』っていう思考に凝り固まってる。彼のこの頑固さ、何か深い理由がありそうだぞ……!)」
私は、それでも諦めずに、自分の持つ論理魔導の概念や、それを利用して、この世界のシステム全体の不具合を修正しようとしていることを説明した。そして、そのためには、術者の思考や論理を記録し、再現できる「記憶デバイス」が不可欠なのだと、力説した。
しかし、フィリップは、私の話を鼻で笑った。
「論理魔導……だと?聞いたこともないな。そんなものは、まやかしだ。真の魔法とは、長年の修練と、そして精緻な魔道具によってのみ、具現化されるもの。お前のような小娘の思いつきで、世界の理がどうこうできるなどと、烏滸がましいにも程がある」
「(小娘って言うな!俺は、中身はアラサーのおっさんSEなんだぞ!)」
内心でツッコミを入れつつも、私は言葉を続ける。
「でも、フィリップさん!あなたのその素晴らしい技術と、私の論理魔導が融合すれば、きっと、今までにない、革新的な魔道具を生み出すことができるはずなんです!それは、この世界の魔法技術を、大きく発展させる可能性を秘めていると、私は信じています!」
「……戯言を」フィリップは、吐き捨てるように言った。「私は、かつて、自分の信じる新しい技術を提唱し、周囲から散々叩かれた経験がある。伝統を重んじるあの石頭どもは、若造の斬新なアイデアなど、聞く耳も持たんのだ。結局、異端扱いされ、ギルドからも追い出され、誰からも相手にされなくなった……まあ、私のこの性格も、大概だがな」自嘲気味にフィリップは付け加えた。「おかげで、こうして細々と、自分の好きな研究だけは続けられているがな。お前も、すぐにその現実を知ることになるだろう。新しいものなど、結局は排斥される運命なのだ」
彼の言葉には、過去の苦い経験からくる深い人間不信と、新しいものへの挑戦を諦めてしまったかのような、痛々しい響きがあった。若い頃、彼はきっと、型にはまらない斬新なアイデアで周囲を驚かせる、希望に満ちた若者だったのだろう。しかし、伝統を重んじる古い世代の職人たちから反感を買い、才能を妬まれ、そのあまりにも職人気質で融通の利かない性格も災いして、孤立無援の状態に追い込まれてしまったのかもしれない。腕は確かなのに、誰からも正当に評価されず、日の目を見ることなく、ただ一人、この古い塔で研究を続けるしかなかったのだ。
「(そっか……この人も、昔、色々あって、心を閉ざしちまったんだな……。だから、こんなに頑なになってしまったのか……)」
私は、フィリップのその頑固な態度の裏にある、彼の心の傷を垣間見たような気がした。この「互換性エラー」を解消するためには、もっと別の角度からのアプローチが必要になりそうだ。




