コミット 151:『魔石加工都市に到着!お目当ては天才職人……って、この人、コミュ力デッドストック品では!?』
魔石加工都市ジオフォート。その名の通り、良質な魔石の産地として名高く、多くの優れた魔道具職人が集まるこの街は、活気に満ち溢れていた。街の至る所から響く金属を打つ音、魔石を研磨する音、そして空気中に漂う独特の鉱物の匂いと凝縮された魔力の気配。それら全てが、この街が「創造」の中心地であることを物語っているようだった。
「(俺はついに来たぞ、ジオフォート! ここなら、あの『記憶デバイス』の情報を掴めるはずだ。そして、あわよくば、その開発者っていう偏屈な天才職人さんにも会えるかもしれない!)」
俺の胸は、新たな技術への期待と、まだ見ぬ才能との出会いへの予感で高鳴っていた。
まずは情報収集だ。私たちは、ジオフォートで最も大きな魔道具職人ギルドへと足を運んだ。ギルド内部は、多くの職人たちでごった返しており、カウンターには様々な魔道具の設計図や加工依頼の羊皮紙が山積みになっている。
「すみませーん!ちょっとお尋ねしたいんですけどー、『魔力を記憶する魔石』みたいな、魔力を記録できる魔道具を研究してる方とか、ご存知ないですかー?」
私がカウンターの受付嬢に声をかけると、彼女は一瞬、面倒くさそうな顔をしたが、すぐに事務的な笑顔を浮かべて「魔力を記憶する魔石、でございますか……?」と首を傾げた。どうやら、その名称自体は一般的ではないらしい。
「えっと、なんていうか、術者の思考とか、魔法の流れみたいなものを、魔石に記録して、後で再現できるような……そんな感じの、すごい魔道具なんですけど!」
私の拙い説明に、受付嬢はしばらく考え込んでいたが、やがてポンと手を打った。
「ああ、もしかして、フィリップ・アウロス様のことではございませんか?あの方は、街のはずれの古い塔に工房を構え、何やら風変わりな研究に没頭されていると聞いておりますわ。ただ……ええと、大変失礼ながら、少々、いえ、かなり気難しい方だと評判でして……」
「(フィリップ・アウロス!ビンゴだ!やっぱり、この街にいるんだ!そして、やっぱり偏屈なのか!)」
私たちは、受付嬢に教えられた場所を目指し、ジオフォートの喧騒から離れた、静かな一角へと進んだ。そこには、蔦に覆われた、古びた石造りの塔が、まるで時の流れから取り残されたかのようにひっそりと佇んでいた。
「ここが……フィリップさんの工房か……。なんか、オーラ出てるな……『話しかけるなオーラ』が」
私がゴクリと喉を鳴らすと、ヴァローナが訝しげに眉をひそめた。「本当に、こんな場所に、お前たちの言うような天才がいるのか?」
「まあ、噂ですからね。でも、ここまで来たからには、確かめてみないと!」
意を決して、塔の重々しい木製の扉をノックする。しかし、返事はない。何度か繰り返すが、結果は同じだった。
「留守……なのでしょうか?」セレスティが不安そうに呟く。
「いや、中に人の気配はするわよ。ただ、出てくる気がないみたいね」ゼフィラが、面白そうに唇の端を上げた。
「(くっそー、やっぱり一筋縄じゃいかないか!こうなったら、最終手段だ!)」
私は、前世で培った(?)不屈のSE精神を発揮し、扉に向かって大声で叫んだ。
「フィリップ・アウロスさーん!いらっしゃいますかー!私、あなたの素晴らしい技術の噂を聞いて、どうしてもお会いしたくて来たんですー!どうか、少しだけでもお話させてくださいー!」
しばらくの沈黙。諦めて帰ろうかと思った、その時。
ギィィ……という、錆び付いた蝶番がきしむ音と共に、扉がゆっくりと内側に開いた。そして、薄暗い工房の奥から、一人の男が姿を現した。
年の頃は40代半ばだろうか。無精髭を生やし、作業着はあちこちが擦り切れ、魔石の粉か何かで薄汚れている。しかし、その瞳だけは、まるで研ぎ澄まされた刃のように鋭く、そして深い探究心の色を宿していた。彼こそが、フィリップ・アウロスなのだろう。
彼は、私たちを一瞥すると、低い声で、ぶっきらぼうに言った。
「……何の用だ。私は忙しい。用がないなら帰れ」
「(うわー……噂通りの偏屈っぷり……!この人、新しい技術とか以前に、まず他人とのコミュニケーションに致命的な問題を抱えてそうだぞ……!コミュ力、完全にデッドストック品じゃねえか……!)」
私の最初の交渉は、早くも暗礁に乗り上げようとしていた。この偏屈な天才職人の心を開くのは、並大抵のことではなさそうだ。




