コミット 147:『「魔力を記憶する石板……?」旅人の噂と、未知なる魔道具職人!?』
「時喰らいの霧」を抜け、再び魔石加工都市ジオフォートへの旅を続けるニーナたち。「世界の脈動」とも呼ぶべき光景は、彼女たちの心に強烈な印象を残し、世界のシステム全体の不具合の深刻さを改めて認識させた。それを解決するためには、ニーナの論理魔導をさらに高度化させる必要がある。そのためにも、「記憶デバイス」のようなものの存在は、彼女にとって大きな希望だった。
旅の途中、一行は「ロックフット」という、ジオフォートの手前に位置する比較的小さな鉱山町に立ち寄った。そこは、ジオフォートほどではないが、良質な魔石が採れることで知られ、多くの魔道具職人たちが工房を構えている。
ニーナは、そこで、何か新しい技術や、あるいは「記憶」に関連する特殊な魔道具の情報がないかと、町の酒場や道具屋を巡っていた。彼女は、自分の論理魔導をより効率的に、そして安定して使うために、魔力的な命令や手順を記録し、再現できるようなデバイスが欲しいと、漠然と考えていたのだ。
そんな中、酒場で隣り合わせた旅の商人から、興味深い噂を耳にする。
「そういえば、お嬢さん。あんた、魔道具に興味があるのかい?だったら、ジオフォートの街に、とんでもない変わり者の職人がいるって話は聞いたことあるかい?」
「変わり者の職人……ですか?」
ニーナは、思わず身を乗り出した。
「ああ。なんでも、その職人は、他の誰も見向きもしないような、古い技術や、奇想天外な魔道具の研究にばかり没頭してるらしいんだ。最近じゃ、『魔力を記憶する石板』なんていう、訳の分からないものを作ろうとしてるって噂だぜ。まあ、成功するはずもないだろうがな。魔力なんてもんは、水物だからな。それを石ころに記憶させるなんて、夢物語もいいところだ」
商人は、そう言ってカラカラと笑ったが、ニーナの心臓は高鳴っていた。
「(魔力を記憶する石板……!?そんなものが、本当に……!?もし、それが実現できれば、俺の論理魔導は、飛躍的に進化する!複雑な処理も、事前に「プログラム」として石板に書き込んでおけば、より迅速に、より高度な魔法が使えるようになるかもしれない……!これは、まさに俺が求めていた技術だ!)」
ニーナは、興奮を隠せない様子で、商人にさらに尋ねた。
「そ、その職人さんって、どんな人なんですか!?名前とか、工房の場所とか、ご存知ないですか!?」
「さあな。名前までは知らねえが、ジオフォートの街のはずれに、古びた工房を構えてるって話だ。ただ、かなりの偏屈者で、滅多に人を工房に入れないらしいぜ。腕は確かだが、協調性がまるでない変わり者だって評判だ。下手に近づくと、追い返されるのが関の山だろうよ」
「(偏屈な、腕のいい職人……か。面白くなってきたじゃないか……!どんな人物か知らないけど、その人が、俺の夢見たデバイスの鍵を握ってるかもしれないんだ。これは、何としてでも、会ってみるしかない!)」
ニーナは、まだ見ぬその魔道具職人への期待と、そして、これから始まるであろう困難な交渉(?)への決意を、新たにするのだった。魔石加工都市ジオフォートへの旅は、いよいよ最終局面を迎えようとしていた。