コミット 141:『森の生命線を取り戻せ!ニーナ、長時間オペレーションとゼフィラの精神支援!』
グリーンウィロウ村を囲む森の枯渇。その原因が、森の奥深くにある古木に宿った、異常な魔力の渦であることを突き止めたニーナたち。このまま放置すれば、森全体が死に絶え、村もまた立ち行かなくなるだろう。
「(この古木の魔力の歪み……単に負のエネルギーを取り除くだけじゃダメだな。森全体の魔力の流れを、正常な状態に『再構築』する必要がある。つまり、広範囲の魔力フィールドに対して、精密なコントロールを、長時間継続するオペレーションが必要になる……これは、骨が折れそうだぞ……!)」
ニーナは、セレスティの古代文献の知識を参考に、森の魔力循環を正常化するための、複雑な論理魔導のアルゴリズムを構築し始めた。それは、森の隅々まで張り巡らされた魔力の経路を特定し、それぞれのノードにおける魔力の流量や質を調整し、そして、古木に集中している負のエネルギーを、安全な形で中和・拡散させるという、極めて高度なものだった。
「セレスティさん、この森の生態系に最も適した、自然な魔力の循環パターンって、どんな感じか分かりますか?」
「は、はい……!古代の文献によれば、この地方の森は、地中深くを流れる清浄な水の魔力と、大気中に満ちる生命の魔力が、古木を介して調和し、循環することで、その豊かさを保っていた、と……!現在の状況は、その調和が完全に失われ、負のエネルギーだけが暴走している状態です……!」
「(なるほど……つまり、古木を『フィルター兼ポンプ』として再機能させ、正常な魔力の流れを『再起動』させる必要があるわけか……!)」
作戦は決まった。ニーナが、論理魔導の全機能を駆使し、森全体の魔力循環の正常化オペレーションを実行する。ヴァローナは、オペレーション中に万が一、森の異常に引き寄せられた魔物が出現した場合に備え、周囲の警戒を厳にする。セレスティは、ニーナの魔力制御を補助し、森の生態系への影響を最小限に抑えるためのアドバイスを行う。
そして、ゼフィラは、ニーナの精神的なサポートに専念することになった。長時間にわたる精密な魔力制御は、術者に計り知れないほどの精神的負荷をかける。ニーナの集中力が途切れれば、オペレーションは失敗し、最悪の場合、森の状況をさらに悪化させる可能性すらあった。
「ニーナちゃん、あなたのその力、信じてるわ。でも、決して無理はしないで。あなたの心が疲れたら、いつでも私に言って。私のこの力で、あなたの心を、少しでも軽くしてあげるから」
ゼフィラは、ニーナの手を優しく握り、力強い眼差しを送った。
オペレーション開始!ニーナは、エレメンタル・ガードナーを通して、自らの魔力を森全体へと広げていく。青白い光の線が、無数に枝分かれし、森の木々や大地へと浸透していく。それは、まるで巨大な神経回路を再構築するかのような、繊細で、そして複雑な作業だった。
古木に渦巻く負のエネルギーは、ニーナの魔力に激しく抵抗し、彼女の精神を蝕もうとする。集中力が途切れそうになるたびに、ゼフィラが、その鼓舞の力でニーナの心を癒し、精神的なエネルギーを補給する。ヴァローナとセレスティも、それぞれの役割を完璧にこなし、ニーナをサポートする。
時間だけが、刻々と過ぎていく。太陽が昇り、そして沈み、再び昇る。ニーナは、不眠不休で、森の魔力循環の正常化オペレーションを続けた。その瞳には、疲労の色が濃く浮かんでいたが、決して諦めることはなかった。
そして、三日目の朝。ついに、古木から放たれる禍々しい紫色の紋様が消え、代わりに、温かく、そして清浄な光が溢れ出し始めた。森全体の魔力の流れは、穏やかで、調和の取れたものへと変わり、枯れていた木々にも、ほんの少しだけ、緑の兆しが見え始めた。
「やった……!オペレーション……成功だ……!」
ニーナは、その場に崩れ落ちそうになるのを、ヴァローナとゼフィラに支えられた。疲労困憊だったが、その表情には、確かな達成感と、そして安堵の色が浮かんでいた。
このグリーンウィロウ村の森の再生は、ニーナにとって、論理魔導の新たな可能性と、そして仲間との絆の強さを再認識する、かけがえのない経験となった。世界の不具合は、時に、このような形で、自然そのものの生命力を脅かすこともある。それを修正するためには、高度な技術だけでなく、仲間を信じ、支え合う心が不可欠なのだと、彼女は深く心に刻むのだった。