コミット 140:『道中の小さな村。枯れゆく森と、村人たちの嘆き。』
魔石加工都市ジオフォートへの旅は、山岳地帯を抜け、比較的穏やかな丘陵地帯へと差し掛かっていた。その道中、ニーナたちは、「グリーンウィロウ」という名の、森の恵みと共に生きる小さな村に立ち寄ることになった。しかし、その村は、活気がなく、村人たちの表情も暗く、深い嘆きに包まれているように見えた。
「(なんだか、この村、雰囲気がおかしいな……みんな、悲しそうで、何かに困っているみたいだ……)」
ニーナは、村の様子に違和感を覚えた。
村の長老に話を聞いてみると、最近、村の生命線であるはずの周囲の森が、急速に枯れ始めているという。木々は葉を落とし、動物たちは姿を消し、森の恵みは途絶え、村人たちの生活は困窮を極めているというのだ。
「……このままでは、我々は森と共に滅びるしかありませぬ。どうか、旅のお方々、この忌まわしき異変の原因を突き止め、我々をお助けくだされ……」
長老は、深い絶望の中で、ニーナたちに懇願した。
「(森が枯れる……か。これも、世界のシステム全体の不具合の影響の一つなのかもしれないな。魔力の流れが乱れ、それが自然環境のバランスを崩し、結果として、森の生命力を奪っている……)」
ニーナは、この村の問題を解決することを決意した。それは、単なる人助けというだけでなく、世界の不具合の具体的な現れ方を調査し、その対処法を学ぶための、重要な機会でもあったからだ。
一行は、早速、問題の森の奥深くへと調査に向かった。森に入ると、そこは不気味なほど静まり返っており、枯れ木が立ち並び、地面には枯葉が積もっている。かつては豊かな緑に覆われていたであろう森は、まるで生命力を吸い取られたかのように、荒涼とした姿を晒していた。
「こ、これは……!森全体の魔力が、著しく低下しています……!まるで、何かに吸い取られているかのよう……!」
セレスティが、古代の魔力感知器を手に、驚愕の声を上げる。
「(魔力が吸い取られてる……?一体、何が…?)」
ニーナは、エレメンタル・ガードナーで周囲の魔力の流れを詳細にスキャンし始めた。
すると、森の奥深く、特定の地点から、周囲の魔力を強引に吸い上げているかのような、異常な魔力の「渦」を感知した。それは、まるでブラックホールのように、森の生命力を貪欲に吸い尽くしているかのようだった。
「(あそこだ……!あそこが、この森の枯渇の原因……!何か、とんでもなく厄介なものが、潜んでる可能性があるぞ…!)」
ニーナたちは、その魔力の渦の中心へと、慎重に足を進めていく。そして、ついに、その元凶と思われる場所にたどり着いた。
そこには、巨大な古木が一本、辛うじて立っていた。しかし、その古木は、まるで内側から蝕まれるように黒く変色し、その幹には、禍々しい紫色の紋様が、まるで血管のように浮かび上がっている。そして、その古木の根元からは、周囲の魔力を吸い上げる、強力な負のエネルギーが、間欠泉のように噴き出していた。
「この古木……何かに寄生されているのか……?それとも、古木自体が、何らかの呪いを受けているのか…?」
ヴァローナが、険しい表情で呟く。
「(この魔力のパターン……明らかに人工的なものじゃない。もっと、こう……自然の摂理そのものが歪んでしまったような、根源的なエラーを感じる。これを修正するには、小手先の対処じゃダメだ。森全体の魔力の流れを、根本から正常化する必要がある……!)」
ニーナは、この森を救うために、大規模な論理魔導のオペレーションが必要になることを予感していた。それは、彼女の魔力制御技術と、そして仲間たちのサポートが試される、新たな挑戦の始まりを意味していた。