コミット 120:『「本当は、ただ愛されたいだけなの…」ゼフィラの心の叫び、一瞬のデータ漏洩。』
ゼフィラがパーティに(半ば強引に)同行するようになってから、数日が過ぎた。相変わらず彼女の奔放な言動に振り回される日々だったが、ニーナたちは、徐々に、その華やかな仮面の下に隠された、彼女の本当の姿に触れる機会が増えていった。
特にニーナは、ゼフィラが抱える「感情の不具合」に対して、SE的なアプローチと、ギャルとしての(?)共感力を駆使し、粘り強く向き合おうと試みていた。時には、彼女の刹那的な価値観を論理的に論破しようとし、時には、彼女の寂しさに寄り添い、ただ話を聞いてあげることもあった。
そんなある夜のこと。一行は、周囲の遺跡探索のため、人里離れた森の中で野営をしていた。月明かりが静かに降り注ぎ、焚き火の炎だけが、暗闇の中で揺らめいている。ヴァローナとセレスティは、既に眠りについており、見張りをしていたニーナとゼフィラだけが、起きていた。
「……ねぇ、ニーナちゃん」
不意に、ゼフィラが、いつものような妖艶な雰囲気ではなく、どこか弱々しい声で、ニーナに話しかけてきた。
「何?どうしたの、ゼフィラさん。らしくないじゃない、そんなしおらしい声出しちゃって」
「……別に、どうってことないわよ。ただ……ちょっと、昔のことを思い出してただけ」
ゼフィラは、焚き火の炎を見つめながら、ぽつりぽつりと、自分の過去の断片を語り始めた。それは、天使と堕天使の間に生まれたが故の、孤独と疎外感。誰からも受け入れられず、愛されることもなく、ただ一人で生きてきた日々の記憶。
「……私ね、ずっと、誰かに必要とされたかったの。誰かに、ただ、そばにいて欲しかった。でも、誰も、私を本当の意味で受け入れてはくれなかった。だから……だから、私は、愛なんて信じないことにしたの。期待しなければ、傷つくこともないから……」
その言葉は、まるで心の奥底から絞り出すような、痛切な響きを持っていた。そして、次の瞬間、ゼフィラの瞳から、一粒の涙が静かにこぼれ落ちた。それは、月の光を浴びてキラリと輝き、地面に落ちる前に、まるで儚い光の粒子のように、ふっと消えてしまった。
「……別に、誰でも良かったわけじゃないのよ。ただ……温もりが欲しかっただけなの……本当は、ただ、愛されたいだけなのよ……私だって……」
それは、ゼフィラが、ほんの一瞬だけ見せた、心の奥底からの叫びだった。彼女が長年抑え込んできた、純粋で、そして切実な願い。その「情報」が、ほんの一瞬だけ、ニーナの目の前に「表示」されたかのようだった。
ニーナは、その言葉と、彼女の涙の意味を、痛いほど理解した。そして、同時に、自分の心の奥底にも、同じような「渇望」があることに気づかされた。他人に評価されたい、認められたいという、あの強迫観念にも似た想いは、もしかしたら、形は違えど、ゼフィラのこの「愛されたい」という願いと、根っこは同じなのかもしれない、と。ニーナはゼフィラの心の揺れを敏感に感じ取っていた。
「ゼフィラさん……」
ニーナは、何と声をかけていいのか分からず、ただ、そっとゼフィラの隣に座り、彼女の肩に手を置いた。言葉はいらなかった。ただ、そばにいること。それだけで、今は十分なような気がした。
ゼフィラは、驚いたようにニーナの顔を見上げたが、やがて、安心したように、ふっと息を吐き、ニーナの肩にそっと頭をもたせかけてきた。
この静かな夜の出来事は、ニーナとゼフィラの間に、新たな関係性の扉を開く、重要なきっかけとなる。それは、単なる旅の仲間というだけでなく、互いの心の傷を理解し、支え合える、もっと深い絆へと繋がっていくのかもしれない。




