コミット 118:『「愛」の概念、再定義!?「感情のアルゴリズム」のデバッグ、開始できるか?』
ゼフィラがパーティに同行するようになってから、ニーナは、彼女が抱える「感情の不具合」……特に「愛なんて信じない」という刹那的な価値観に対して、どうにかしてアプローチできないものかと、SE的な思考を巡らせていた。
「(ゼフィラさんの言う『愛』って、一体どういう定義なんだろうな?もしかしたら、彼女が経験してきた『愛』の形が、たまたま歪んでいただけで、もっと別の形の『愛』が存在する可能性を、彼女は知らないだけなのかもしれない。だとしたら……)」
ニーナは、ふと、前世で人間関係の難しさに直面した時、それを何とか論理的に理解しようと試みたことを思い出していた。もちろん、人間の感情は単純なロジックで割り切れるものではない。しかし、だからといって、理解しようとすることを諦めてしまっては、何も始まらない。
「(そうだ……ゼフィラさんの『感情のアルゴリズム』をデバッグするためには、まず、彼女の中で誤った前提条件となってしまっている『愛』という概念を、見直す必要があるんじゃないか?そして、新しい『愛のモデルケース』を、彼女に提示し、それを体験してもらうことで、彼女の感情システムに新しいパターンを……いや、より健全な状態に近づけることができないだろうか?)」
それは、あまりにもSE的で、そしておこがましい発想だったかもしれない。他人の感情を、まるでプログラムのように扱おうとすること自体が、大きな間違いを犯している可能性もある。
しかし、ニーナは、ゼフィラの心の奥底にある純粋な「愛されたい」という願いを感じ取っていたからこそ、諦めたくなかった。
「(愛って、別に、男女間の恋愛だけが全てじゃないよな。仲間への信頼とか、家族への想いとか、あるいは、誰かの役に立ちたいっていう自己犠牲の精神とか……そういう、もっと広くて、深い概念だってあるはずだ。ゼフィラさんは、そういう『多様な愛の形』を知らないだけなのかもしれない)」
ニーナは、まず、自分自身が考える「愛」というものの様々な側面を、ゼフィラとの関わりの中で、少しずつ示していくことを考えた。
例えば、「信頼」。「相手を信じ、自分の弱さも見せられる関係性」。ニーナ自身もまだ完璧ではないが、ヴァローナやセレスティとの間で育んできたものを、ゼフィラにも感じてもらえるように。
「共感」。「相手の喜びや悲しみを、自分のことのように感じられる心の動き」。ゼフィラの孤独に寄り添い、彼女の痛みを理解しようと努めること。
「尊重」。「相手の価値観や生き方を認め、それを否定しないこと」。ゼフィラの奔放さや刹那的な生き方を頭ごなしに否定するのではなく、その背景にあるものを見ようとすること。
「献身」。「見返りを求めず、相手のために何かをしてあげたいと思う気持ち」。ゼフィラが本当に困っている時に、損得勘定抜きで手を差し伸べること。
「(これらの要素を、ゼフィラさんとの日々のコミュニケーションの中で、少しずつ『実践』していくことで、彼女の心に新しい感情のパターンを『体験』してもらう……人間の感情は、そんなに単純なものじゃない。論理だけじゃ割り切れない、もっと曖昧で、複雑なものだ。でも、だからといって、何もしないよりはマシだ。俺は、SEとして、不具合を見つけたら、それを修正するために、あらゆる手段を試す。それが、俺のやり方なんだから!)」
ニーナは、ゼフィラの「感情デバッグ」という、前代未聞のプロジェクトに、密かに着手することを決意した。それは、論理と感情が複雑に絡み合う、極めて難易度の高い挑戦になるだろう。しかし、もし成功すれば、それは、ゼフィラだけでなく、ニーナ自身の「心の不具合」の克服にも、繋がるかもしれない。




