コミット 117:『パーティのムードメーカー、その笑顔の裏の「エラーコード」。』
ゼフィラの衝撃的な過去の告白の翌日。彼女は、特に理由を説明することもなく、半ば強引にニーナたちの旅に同行するようになっていた。ニーナたちは、当初こそ戸惑ったものの、彼女の持つ情報網や、いざという時の戦闘能力(魅了的な魔力だけでなく、光と闇の双方の属性を操る高度な魔法も使えることが判明した)を考慮し、しばらくは行動を共にすることを黙認する形となった。
ゼフィラは、持ち前の明るさと、天性のコミュニケーション能力(?)で、あっという間にパーティのムードメーカー的な存在になった。彼女の妖艶な魅力と、時折見せる子供っぽい無邪気さは、殺伐としがちな旅の道中に、不思議な彩りを与えてくれる。
「ねぇ、ヴァローナちゃん。そんなにいつも眉間にシワ寄せてると、可愛いお顔が台無しよぉ?もっと笑って笑って♪ 人生、楽しまなくっちゃ損なんだから!」
「……私は、お前のように軽薄ではないのでな」
「セレスティちゃんは、本当に可愛らしいわねぇ。その猫耳、触ってもいいかしら?うふふっ、ふわふわで気持ちいい~♡」
「ひゃっ!?ぜ、ゼフィラさん……!?」
ゼフィラは、ヴァローナをからかったり、セレスティを可愛がったり(時にはセクハラまがいのこともするが)、そしてニーナには、何かとちょっかいを出してきたりと、常にパーティの中心で騒動を巻き起こしていた。
しかし、ニーナは、そんなゼフィラの笑顔の裏に、時折、ふとした瞬間に見せる、深い孤独や虚無の色を感じ取っていた。それは、まるでプログラムの美しいGUIの裏に隠された、無数のエラーメッセージのように、彼女の心の不安定さを示唆しているかのようだった。
例えば、みんなで賑やかに食事をしている時でも、ゼフィラは、一瞬だけ遠い目をして、誰にも気づかれないように深いため息をつくことがあった。あるいは、美しい景色を見て感動しているように見えても、その瞳の奥には、どこか醒めたような、全てを達観したかのような光が宿っていることもあった。
そして、夜、一人になると、彼女は、月を見上げながら、誰にも聞かれないように、小さな声で物悲しい歌を口ずさむこともあった。その歌声は、天使のような美しさの中に、どこか堕天使のような絶望を秘めているように聞こえた。
「(この人……本当に、無理してるんだな。本当は、寂しくて、誰かにすがりたくてたまらないのに、それを悟られないように、必死で明るく振る舞ってる。まるで、致命的なエラーを抱えながら、それを無視して動き続けてる、不安定なシステムみたいだ……)」
ニーナは、そんなゼフィラの姿を見るたびに、胸が締め付けられるような思いだった。彼女の「感情の不具合」は、想像以上に複雑で、そして根深い。それを修正するためには、相当な時間と、そして何よりも、真摯な向き合いが必要になるだろう。
ヴァローナやセレスティも、ゼフィラのその二面性に気づいているのか、いないのか。あるいは、気づいていても、どう接していいのか分からずにいるのかもしれない。
この妖艶で、そしてどこか危うい魅力を持つ天使の末裔は、ニーナたちのパーティに、新たな刺激と、そして大きな課題をもたらしていた。彼女の笑顔の裏に隠された「エラーメッセージ」を、ニーナたちは、果たして解読し、修正することができるのだろうか。
 




