コミット 116：『天使と堕天使の狭間！？ゼフィラの出自に隠された「異端」の烙印。』
ゼフィラに心の核心を突かれ、動揺を隠せないニーナ。その場は重苦しい沈黙に包まれたが、やがてゼフィラが、自嘲するような笑みを浮かべて、ぽつりぽつりと自身のことを語り始めた。
「……まあ、偉そうなこと言ったけど、私だって、自分のことなんて、全然分かってないんだけどね。天使の末裔、なんて言ってるけど、実際は、どっちつかずの半端者なのよ」
ゼフィラの言葉には、これまで見せたことのない、深い哀しみの色が滲んでいた。その声は、どこか遠く、過去の記憶を辿るように響く。
「私の父は、古き天使の一族でも名の知れた高潔な者だったわ。でも、母は……同じく天使の血を引くけれど、一族の教えに背き『堕ちた』とされた者たち……そう、堕天使の末裔の一族だったの。二人は、許されない恋に落ちて、そして私が生まれた。もちろん、そんな関係が、どちらの一族にも認められるはずもなく……私たちは、常に異端の目で見られ、安住の地を求めることになったわ」
ゼフィラの回想シーンが、ニーナの脳裏に断片的に浮かび上がる。それは、光と闇が激しくぶつかり合い、引き裂かれるような、不安定で痛々しいイメージだった。美しい純白の翼と、禍々しい漆黒の翼。その両方を受け継いでしまったが故の、彼女の苦悩が伝わってくる。
「父は、私たちを守るために戦い、そして命を落とした。母も、私を庇って、深い傷を負い……結局、私は、たった一人で、この世界を彷徨うことになったの。純粋な天使の一族からは『穢れた血』と蔑まれ、堕天使の末裔たちからも『裏切り者の子』と罵られ……どこにも、私の居場所なんてなかった。天使と堕天使、どちらの社会からも『異端』として扱われ、爪弾きにされてきたのよ」
彼女の言葉の端々からは、長年抱え続けてきた深い孤独と絶望が滲み出ていた。その表情には、消えることのない心の傷、そして異端としての生い立ちが、はっきりと刻まれている。
「だから、私は決めたの。誰にも頼らず、誰にも期待せず、一人で生きていくって。愛なんて、信じない。絆なんて、どうせいつかは壊れるもの。それなら、最初から、そんなもの求めなければいい。刹那的な快楽と、表面的な関係だけで、心を慰めていればいいんだって……」
しかし、その言葉とは裏腹に、ゼフィラの表情は、誰よりも愛を求め、誰よりも温かい絆に飢えているように見えた。彼女が過剰に明るく振る舞い、享楽的な言動を繰り返すのは、その心の奥底にある、漆黒の闇と孤独を隠すための、必死の仮面なのかもしれない。
ニーナは、ゼフィラのその壮絶な過去と、彼女が抱える心の傷の深さを知り、言葉を失った。自分の「他人の評価」という不具合など、彼女の経験に比べれば、些細なものに思えてしまうほどだった。
「（この人……ずっと、一人で戦ってきたんだな……天使でもなく、堕天使でもなく……ただ、『ゼフィラ』として生きるために……だから、あんなに強くて、そして、あんなに脆いのかもしれない……）」
ヴァローナも、セレスティも、ゼフィラのその告白に、ただ黙って耳を傾けていた。彼女たちが、ゼフィラの心の闇を完全に理解できたわけではないかもしれない。しかし、彼女が抱える孤独と痛みは、確かに伝わってきていた。
この瞬間、ニーナたちの間に、ゼフィラに対する新たな感情が芽生え始めていた。それは、同情や憐憫といったものではなく、もっと複雑で、そして人間的な……彼女の魂の叫びに、どうにかして応えたいという、切実な想いだったのかもしれない。
