コミット 115:『ゼフィラの洞察眼、ニーナの心のバグをスキャン!?「あんた、無理してるでしょ?」』
天使魅了の暴走騒ぎがようやく収まり、アルカンシェルの街に一応の平穏が戻った。ニーナたちは、騒動の中心にいたゼフィラを半ば強引に宿屋の一室に連れ込み、事情聴取(という名の説教)を試みていた。
「……というわけで、ゼフィラさん。あなたのあの力、もう少しコントロールできないんですか?街中が大混乱だったんですよ!?」
ニーナは、呆れ顔でゼフィラに詰め寄る。
ゼフィラは、悪びれる様子もなく、ふわりと微笑んで答えた。「あら、ごめんなさいねぇ。ちょっと、魔力の虫の居所が悪かったみたいで。でも、みんな、私のためにあんなに熱くなってくれて、ちょっと嬉しかったわぁ♡」
「(この人、本当に反省してるのか……!?)」
ヴァローナは、苦虫を噛み潰したような顔で腕を組んでいる。セレスティは、まだ少し怯えた様子で、遠巻きにゼフィラを見ている。
そんな中、ゼフィラは、ふと真顔になり、じっとニーナの瞳を見つめてきた。その瞳は、普段の妖艶な光とは異なる、全てを見透かすような、鋭い洞察力を秘めているように見えた。
「ねぇ、ニーナちゃん。あなた、見ててすごく面白いんだけど……時々、なんだかすごく苦しそうに見えるわよ?」
「え……?」
ニーナは、ゼフィラの唐突な言葉に、思わず動揺する。
「だって、あなた、本当はそんなに明るいタイプじゃないでしょ?無理して明るく振る舞って、周りに合わせようとしてる感じが、なんだか痛々しいっていうか……本当の自分を、どこかに押し込めてるんじゃないの?」
ゼフィラの言葉は、まるで鋭い刃のように、ニーナの心の奥底に突き刺さった。それは、彼女が長年抱え続けてきた「他人の評価への過度な意識」というクリティカルな問題の核心を、的確に抉り出すものだった。
「(こ、この人……なんで、そんなこと……!?確かに、俺は、前世のトラウマから、他人の評価を気にして、ギャルを演じてる部分はあるけど……それを、初対面に毛が生えた程度のこの人に、見抜かれるなんて……!)」
ニーナは、自分の心の不具合を指摘されたことに、激しく動揺し、言葉に詰まってしまう。図星だった。ゼフィラのような、他人の感情の機微に敏感なタイプには、ニーナが無理して取り繕っている姿が、手に取るように分かってしまうのかもしれない。お互いに、心の奥底に何かしらの「歪み」を抱えているからこそ、相手のそれに敏感に反応してしまうのだろうか。
ゼフィラは、そんなニーナの様子を見て、ふっと寂しげな笑みを浮かべた。
「……無理もないわよね。誰だって、本当の自分をさらけ出すのは怖いもの。特に、あなたみたいに、何か大きなものを背負い込んでる人は、なおさらね。でもね、ニーナちゃん。無理して作った仮面は、いつか必ず剥がれ落ちるものよ。そして、その時に一番傷つくのは、他の誰でもない、あなた自身なんだから……」
その言葉は、まるでゼフィラ自身に言い聞かせているかのようにも聞こえた。彼女もまた、愛されたいという本心と、愛を信じられないという絶望の間で揺れ動き、無理な振る舞いを続けているのかもしれない。
この瞬間、ニーナは、ゼフィラとの間に、奇妙な共感のようなものを感じていた。
ゼフィラのこの一言は、ニーナにとって、自分の「他人の評価」という不具合と、改めて真剣に向き合うきっかけとなる、重要なターニングポイントとなるのだった。




