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コミット 103:『森の夜の焚き火!ヴァローナの過去と「失われた砦」のトラウマの断片!?』

古代神殿での探索は、昼夜を問わず続けられた。夜になると、三人は比較的安全な神殿の一室を見つけて野営し、交代で見張りをしながら、束の間の休息を取る。


ある晩、神殿の崩れた天井から差し込む月光が、静かに石床を照らし、焚き火の炎がパチパチと音を立てて燃えている。ヴァローナが見張りを買って出ており、ニーナとセレスティは、焚き火の周りで毛布にくるまりながら、今日の出来事を振り返っていた。


「それにしても、今日の罠は本当に危なかったですよね……セレスティさんの知識がなかったら、どうなっていたことか……」


ニーナが言うと、セレスティは恐縮したように首を横に振った。


「い、いえ……私なんて、まだまだです……ヴァローナ様のように、咄嗟に危険を察知したり、ニーナさんのように、すぐに状況を分析して的確な判断を下したりすることは、できませんから……」


そんな二人の会話を、ヴァローナは背中で聞きながら、静かに口を開いた。


「……油断と慢心は、時に、経験や知識よりも恐ろしい結果を招くことがある」


その言葉には、どこか重々しい響きがあった。


ニーナは、ヴァローナのその様子に、彼女が抱える「思考の硬直化」という不具合の根源である、過去のトラウマの影を感じ取った。


「ヴァローナさん……何か、あったんですか?以前、少しだけ聞きましたけど……『失われた砦』のこと……」


ヴァローナは、しばらくの間、黙って揺らめく炎を見つめていたが、やがて、ぽつりぽつりと語り始めた。


「……あれは、私がまだ若く、騎士団の一部隊を率いていた頃の話だ。ある辺境の砦で、大規模な魔物の侵攻に直面した。私は、それまでの戦いの経験則から、完璧な防衛計画を立てたつもりだった。敵の行動パターンを予測し、兵力を最適に配置し、一分の隙もない布陣を敷いた、と信じていた……」


ヴァローナの声には、深い後悔の色が滲んでいた。


「だが、敵は、私の予想を遥かに超える、未知の戦術と、そして圧倒的な力で襲い掛かってきた。私の理屈は、全く通用しなかった。砦は、瞬く間に陥落し……多くの部下たちが、私の目の前で命を落とした……私は、自分の判断の甘さと、理屈への過信が招いた結果を、ただ呆然と見ていることしかできなかった……」


焚き火の炎が、ヴァローナの顔に暗い影を落とす。彼女の瞳には、当時の絶望と無力感が、ありありと蘇っているかのようだった。


「(これが、ヴァローナさんのトラウマ……『失われた砦、瓦解した信念』……。自分の信じていたものが、目の前で崩れ去る恐怖。そして、多くの仲間を失ったという、消えない罪悪感……。それが、彼女を経験則に固執させ、新しいものを受け入れることを恐れさせているんだな……)」


ニーナは、ヴァローナの痛みを、自分のことのように感じていた。前世で、システム全体の不具合の責任を一身に背負わされ、自信を失った時の記憶が蘇る。


セレスティも、ヴァローナの辛い過去の話に、胸を痛めているようだった。彼女は、そっとヴァローナのそばに寄り添い、何も言わずに、ただ静かに彼女の言葉に耳を傾けていた。


「……それ以来、私は、自分の経験則だけを信じ、それ以外のものを排除するようになった。未知の状況や、新しい戦術に対して、臆病になっていたのかもしれん。お前たちと出会うまではな……」


ヴァローナは、ニーナとセレスティの方を向き、ほんの少しだけ、穏やかな表情を見せた。


「ニーナ、お前のその奇妙な術と、論理的な思考。そして、セレスティ、お前のその膨大な知識。それらは、私の凝り固まった思考に、新たな風を吹き込んでくれた。まだ、完全に過去を乗り越えられたわけではない。だが……お前たちと一緒なら、あるいは、私も変われるのかもしれないと、そう思い始めている」


その言葉は、ヴァローナなりの、最大限の信頼の表明だった。


ニーナは、ヴァローナのその言葉に、強く勇気づけられた。


「(ヴァローナさんの不具合も、少しずつだけど、確実にデバッグされていってる。私たちなら、きっと、どんな困難な不具合だって、乗り越えられるはずだ!)」


古代神殿の静寂の中で、三人の間には、言葉では言い表せない、確かな絆が育まれていた。それは、それぞれの過去の傷を共有し、互いを支え合うことで生まれる、温かく、そして力強い絆だった。

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