コミット 102:『森の獣道と古代神殿の罠!セレスティの知識がパーティを救う!』
シルヴァンデールの町を後にしたニーナたちは、次の目的地である商業都市アルカンシェルを目指し、街道をさらに進んでいた。その道中、事前の調査で、古い街道筋から少し外れた森の奥深くに、忘れ去られた古代神殿が存在することが判明していた。何かしらエデンに関する手がかりが得られるかもしれないと考えた一行は、その神殿に立ち寄ることにした。
その森は、昼なお薄暗く、不気味な雰囲気が漂っていた。古代神殿の周辺は、強力な魔物が多く生息し、おまけに複雑な自然の迷路のようになっているため、ほとんど人が足を踏み入れない危険な場所とされている。
「(うわー、なんか嫌な感じの森だな……魔物の気配も濃いし、魔力の流れも微妙に乱れてる。こういう場所って、大抵ろくなことがないんだよな)」
ニーナは、周囲の鬱蒼とした木々を見回しながら、警戒を強めた。
ヴァローナは、長年の経験と勘を頼りに、微かな獣道や太陽の位置から進むべき方向を判断しようとするが、それでも迷いそうになる場面が何度かあった。
そんな時、頼りになったのが、セレスティの持つ古代の知識だった。
「あ、あの……ヴァローナ様。こちらの道よりも、あちらの、少し苔むした岩が多い場所の方が、古代の神殿へ続く道の可能性が高いと思われます。文献によると、この地方の古代神殿は、特定の種類の苔が生えやすい岩質の土壌の上に築かれることが多く、その参道には、目印となる特殊な形状の石柱が配置されていた、と……」
セレスティは、鞄から取り出した古びた地図の写し(これも彼女が解読・復元したもの)と、周囲の地形を照らし合わせながら、的確なアドバイスを与える。彼女の言葉通りに進むと、確かに、道端に古い石柱の残骸や、他とは異なる種類の苔に覆われた岩が見つかり、それが正しい道を進んでいることの証となった。
「(セレスティさん、マジで生き字引だな……こんな森の中で、文献の知識だけでルート特定できるとか、普通の学者じゃ絶対無理だろ。これが、彼女の『知識という名の装備』の力か……!)」
ニーナは、セレスティの能力に改めて感嘆した。
しかし、古代神殿への道は、単に道に迷いやすいだけではなかった。神殿に近づくにつれて、古代の罠や、強力な魔物たちが、ニーナたちの行く手を阻み始めた。
そして、ついに一行は、蔦に覆われた、巨大な石造りの壁の前にたどり着いた。一見すると、ただの崖のようにも見えるが、セレスティが壁の一部分を指さす。
「ここです……!この壁の模様……古代の隠し扉の印です!特定の魔力パターンを流し込むことで、開くはずです!」
ニーナが、セレスティの指示通りに魔力を流し込むと、ゴゴゴという重々しい音と共に、壁の一部が内側にスライドし、神殿内部へと続く、薄暗い入り口が現れた。
「(まさか、こんな場所に隠し通路があったとはな……これなら、今まで誰にも発見されなかったのも頷ける)」
ニーナたちが神殿内部へと足を踏み入れると、そこは、苔むした石畳が敷かれた、明らかに人工的な通路が続いていた。そして、その通路の先には、何かの儀式が行われていたかのような、広間が見える。
ヴァローナは、慎重に周囲を警戒しながら、広間へと近づく。「罠の気配は今のところ感じられんが……油断はするな」
しかし、ニーナが広間の中央に描かれた奇妙な紋章の上に足を乗せた瞬間、足元の石畳に刻まれた紋様が鈍く光り、突如として広間を囲む壁や天井から、複数の属性を帯びた魔力の槍が、まるで雨あられのように降り注ぎ始めた!
「くっ……!全員、回避!」
ヴァローナが叫ぶ。
ニーナは、咄嗟に論理魔導で氷の障壁を展開し、魔法の槍を防ごうとするが、異なる属性の魔力が混じり合ったことで、その威力は単純な防御を許さず、加えて降り注ぐ槍の数と速度に圧倒されてしまう。ヴァローナは、剣で魔法の槍を弾き飛ばそうとするが、その連撃の速さはあまりにも高い。絶体絶命のピンチだ!
その時、セレスティが叫んだ。
「に、ニーナさん、ヴァローナ様!その罠、古代の『連動式多重魔槍トラップ』です!解除するには、広間の四隅にある、魔法属性を司る獣の石像の目に、特定の順番で魔力を流し込まないと……!順番は、確か……鷲(風)、獅子(炎)、蛇(水)、そして最後に狼(土)のはずです!」
「獣の石像だって!?どこだ、それは!?」
セレスティの的確な指示を受け、ニーナとヴァローナは、それぞれ広間の四隅に配置された石像を発見し、セレスティが叫んだ通りの順番で、魔力を流し込んでいく。すると、あれほど激しく作動していた罠が、ピタリと停止したのだ。
「はぁ……はぁ……助かった……セレスティさん、あんたがいなかったら、今頃私たち、ミンチになってたぞ……」
ニーナは、冷や汗を拭いながら、セレスティに感謝の言葉を述べた。
「い、いえ……私も、文献で読んだ知識があっただけで……お役に立てて、よかったです……」
セレスティは、はにかみながらも、自分の知識が仲間を救えたことに、確かな喜びを感じていた。
この一件は、セレスティにとって、自分の知識が実戦で役立つことを再認識する、大きな自信へと繋がった。そして、ニーナとヴァローナも、セレスティの知識の重要性を改めて理解し、彼女への信頼をより一層深めるのだった。
この古代神殿の探索は、まだ始まったばかりだ。しかし、三人は、それぞれの力を合わせ、互いの弱点を補い合うことで、どんな困難も乗り越えていけると、確信し始めていた。




