コミット 101:『クロノスの森への道!最初の街と「魔力の淀み」の小規模バグ!?』
首都アウレア・シティを後にしたニーナ、ヴァローナ、セレスティの三人は、クロノスの森へと続く長い旅路の途上にあった。最初の数日は、比較的穏やかな街道を進み、道中の小さな村や町に立ち寄りながら、旅のペースを掴んでいった。
「(うーん、首都を出ると、やっぱり魔力の流れが微妙に不安定だな。特に、古い集落とかだと、魔力の『淀み』みたいなものが感じられる場所があるな……)」
ニーナは、エレメンタル・ガードナーを通して、周囲の魔力環境を常にスキャンしていた。世界のシステム全体の不具合の影響は、首都のような管理された都市部よりも、地方の小さな集落の方が顕著に現れているようだった。
最初の目的地として立ち寄ったのは、「シルヴァンデール」という、大きな森の入り口に位置する比較的小さな町だった。この町は、森から採れる薬草や木材の交易で成り立っており、どこか鄙びた、しかし温かい雰囲気が漂っている。
しかし、ニーナは、このシルヴァンデールという町の一角に、奇妙な魔力の「淀み」が存在することに気づいた。それは、町の古い井戸の周辺で、そこだけ魔力の流れが不自然に滞り、微弱ながらも周囲の空間を歪ませているようだった。
「ヴァローナさん、セレスティさん、ちょっとあそこ、見てみてください。あの井戸の周り、魔力の流れがおかしくないですか?」
ヴァローナは、眉をひそめて井戸の周辺を観察する。「……確かに、言われてみれば、空気が重く、魔物の気配とは異なる、不快な圧力を感じるな」
セレスティも、鞄から取り出した古代の魔力感知器(ニーナが修理・改良したもの)をかざし、その数値を読み上げる。「こ、ここの魔力密度、周囲の平均値よりも、明らかに高いです……!しかも、魔力の性質が、非常に不安定で……まるで、何かが『流れを堰き止められて』いるみたい……」
「(魔力の流れの滞り、か。放置しておくと、いずれ周囲の魔力バランスを崩して、良くない影響を及ぼすかもしれないな。小規模だけど、これも立派なシステム全体の不具合の一端だ)」
ニーナは、井戸の所有者である老婆に話を聞いてみることにした。老婆によると、その井戸はもう何十年も使われておらず、最近になって、井戸の周りで奇妙な現象(物がひとりでに動く、夜中に不気味な音がするなど)が起きるようになったという。また、井戸の底には、昔、旅の魔術師が「お守り」だと言って置いていった古い魔石があるらしい、とも語った。
「よし、原因調査と、可能であれば修正作業、やっちゃいましょうか!」
ニーナは、腕まくりをして宣言した。
井戸の内部を調べてみると、底の方に、老婆の言う通り、古びた魔石がいくつか転がっていた。ニーナが解析したところ、それらの魔石は、周囲の魔力を無差別に吸収し続ける性質を持っており、その吸収した魔力を適切に放出する機能が何らかの理由で損なわれているようだった。その結果、魔石の周囲に過剰な魔力が蓄積し、「魔力の淀み」を形成していたのだ。
「(なるほど、古い装置が暴走して、リソースを食い潰してるみたいな状況か。この魔石を取り出して、魔力の流れを正常化すれば、問題は解決するはずだ)」
ニーナは、論理魔導で慎重に魔石を井戸から取り出し、さらに、淀んだ魔力を周囲に拡散させ、正常な流れに戻すための「浄化」作業を行った。青い光の線が、井戸の周囲に広がり、滞っていた魔力がサラサラと解きほぐされていく。
作業を終えると、井戸の周辺を覆っていた重苦しい空気は消え去り、清浄な魔力の流れが戻ってきた。老婆も、心なしか顔色が大分良くなったようだ。
「おお……!なんだか、空気がスッキリしたみたいじゃ……!旅のお方、本当にありがとう!」
老婆からの心からの感謝の言葉に、ニーナは少し照れながらも、確かな達成感を覚えた。それは、首都の魔力供給システムを復旧させた時のような大きなものではないかもしれないが、目の前の小さな「不具合」を修正し、誰かの役に立てたという喜びは、彼女の心を温かく満たしてくれた。
このシルヴァンデールでの一件は、ニーナたちにとって、これから直面するであろう、様々な「世界の不具合」との戦いを予感させる、象徴的な出来事でもあった。




