コミット 10:『異世界の情報インフラ、脆弱すぎ問題!紙媒体オンリーとかマジ?』
村での生活にも少し慣れてきた頃、私は本格的な情報収集の必要性を感じ始めていた。この世界がどんな場所で、どんな法則で動いていて、そして私に何ができるのか。それを知るためには、やはり情報が不可欠だ。
ゴードン村長に頼み込み、村の集会所の一角にある、申し訳程度の「資料置き場」を使わせてもらうことになった。そこには、羊皮紙に手書きで記された村の簡単な歴史や、周辺地域の不正確な地図、そして数冊の古びた書物が埃をかぶって置かれているだけだった。
「(……マジか。これがこの村の全情報資産かよ……)」
私は愕然とした。前世では、指先一つで全世界のデータベースにアクセスできたというのに、この世界の情報インフラは、あまりにも脆弱すぎた。
「(これじゃあ、バージョン管理もなってないし、バックアップもないってこと? 誰かが勝手に書き換えたり、なくしたりしたら、それで終わりじゃんか。バックアップの概念とか、あるのかな……いや、なさそうだな)」
SEの血が騒ぐ、というよりは、もはや嘆きに近い感情が湧き上がってくる。手書きの古文書を一枚一枚めくりながら、私は前世の便利ツールたちに思いを馳せずにはいられなかった。
「(あー、高性能なAIアシスタントがマジで欲しい……。音声入力で必要な情報を検索できて、自動で情報を整理・分析してくれて、なんなら最適な行動計画まで提案してくれるような、そんな夢のシステムが……もしあれば、この世界の謎を解き明かすのも、ずっと簡単になるだろうし、論理魔導の開発だって、もっと効率的に進められるはずだ……)」
気を取り直して、目の前の古文書に集中する。内容は、ほとんどが村の年中行事の記録や、過去の出来事の断片的な記述ばかりで、私が求めるような「世界のシステム」に関する情報は皆無に等しい。
それでも、いくつかの興味深い記述は見つけることができた。
一つは、「魔石」に関するもの。この世界では、魔石は自然に産出されるものであり、それぞれが異なる特性を持つこと。そして、魔術師は、その魔石を介して魔力を特定の現象に変換する技術を持つ者であること。 これは、私が漠然と感じていたことと一致する 。
もう一つは、「魔法」そのものについて。この世界の魔法は、高度なものであればあるほど、術者の極めて高い集中力と強固な意志、そして使用する魔石の品質や、その魔石を加工する技術の精度に大きく左右されるらしい 。
「(なるほどな。やっぱり、経験と勘、そしてハードウェア(魔石とその加工技術)依存のシステムってわけか。私の論理魔導とは、根本的に設計思想が違うわけだ)」
情報は少ないながらも、少しずつこの世界の輪郭が見えてきた気がする。だが、まだまだ足りない。もっと多くの情報が、もっと体系化された知識が必要だ。
「(この村に長居しても、これ以上の情報は得られそうにないな……。やはり、もっと大きな町か、あるいは専門的な知識を持つ人間がいる場所へ行く必要があるか)」
私は、埃っぽい古文書を閉じながら、新たな目的地について考え始めていた。高性能AIアシスタントはまだ夢のまた夢だが、まずは自分の足で情報を集めるしかない。それが、この世界のやり方なのだから。
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